- ホーム >
飲むなら乗るな、乗るなら飲むな!のはずですが・・・
車に乗って知人宅へ行き、ついついビールを飲んでしまいました。さてそのまま帰るわ
けにはいきませんので、運転代行を頼むことにしました。これで一安心、と思っていたと
ころ、なんと、代行運転をしていた人が、事故を起こし、人をはねてしまいました。命に
別状はなかったものの、怪我をされてしまいました。
さて、その場合、代行運転を頼んでいるのに、損害賠償の責任を負うことになるのでし
ょうか。
本人としては、飲酒運転を避けるため、代行運転を依頼しているのですから、そんな責
任を何で負わないといけないんだ、ということになりそうです。代行者が責任を持って運
転している時の事故ですから、誰しもそう思いますよね。
もちろん、代行を頼むと、代行運転者が帰るために代行車も一緒に走りますから、その
代行車両が事故を起こしたとしても、強引にむちゃくちゃな指示をしたというような場合
でもない限り依頼した者に責任は生じません。
問題は、依頼した者の車を運転していた代行運転手が事故を犯した場合です。
この場合、依頼者が、自分の車に乗っていたのか、代行車両に乗っていたのかによって
結論が分かれることになりそうです。
自賠法3条では、自動車事故の人的損害について、「運行供用者」は責任を負担しなけ
ればならないようになっています。運行供用者とは、自動車の所有者や使用権者等、車の
運行についての「運行支配」と「運行利益」を得ている者をさすと言われています。
代行運転の場合、それで家(目的地)までいくわけですから、「運行利益」があること
は認められます。問題は、「運行支配」があるのかどうかという点です。平たく言えば、
運転に何らかの影響を及ぼすような立場にあったかどうかです。ここでは、被害者救済の
要請が働きますので、判例などでは、比較的広くとらえられる傾向があります。もともと、
自賠法は、被害者救済のための法律と考えられますから、車の持ち主には民法で決められ
るよりも重い責任を課しているのです。
そうしますと、代行を依頼した者が、代行車両の方に乗っていた場合、「支配」がある
とは言いにくいと思われますので、運行供用者にはあたらないことになりそうです。
そうではなく、自分の車の助手席に座り、代行者に運転をさせていたような場合には、
実際に運転の指示をしたのか否かに拘わらず、助手席に乗っている限りはそこに「支配」
性が認められることになりそうです。
したがって、運転代行を頼んでいるにも拘わらず、自賠法3条の賠償責任を負うことに
なるものと思われます。
本来、自賠責保険に入っていない車を運転してはいけませんが、この意味でも、自賠責
保険には加入する必要があります。自賠責に入っていない場合、仮に任意保険に入ってい
ても、自賠責がカバーする人的損害部分については、自己負担せざるを得ないことになり
ます。
しかし、反対に、代行者の運転によって、助手席にいた車の持ち主が怪我をした場合、
自分の車に乗っていて、事故に巻き込まれたわけですが、自賠法3条の「他人」に当たり
ますので、自分の加入している自賠責保険への請求も認められます。これも、被害者(こ
こでは車の所有者)救済の一場面です。
弁護士 岡 根 竜 介
<トップページへ>