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裁判員制度(その5)
先日、京都南部のとある自治会開催の「裁判員制度」説明会に
お話をさせてもらいに行ってきました。午後7時30分から9時30分
までという広報であったにも関わらず40名あまりの方が集まられ
ました。
裁判員になるかもしれない、選ばれたらどうしよう、という事
もあり、関心が高いことを実感しました。
裁判員制度自体は、いろんな問題があって被告人の利益をさら
に削り取ることになるのではないかという疑問が多々あるのです
が、それはさておき、一般市民が刑事裁判に関わることは、戦後
はなかったわけですから、それ自体は画期的なことだと思います。
そこで、市民が参加することの意味を十分に実現していくことが
求められることになります。
裁判所は、制度導入の理由を、刑事司法を市民に身近に感じて
もらい司法への理解と信頼を深めてもらうことにあるとしかいい
ません。
しかし、市民が参加する必要性があるのは、今までの刑事裁判
において非常識な判断が繰り返されたからです。裁判官しか経験
の無いエリートが、社会の常識からすれば?????としかいい
ようのない判決(もちろん有罪方向です)を繰り返してきたから
です。
非常識な例をいくつか挙げます。
例えば、事件現場周辺の観測ポイントではどの観測点も雨が降
っているのに、被害者の供述には、雨に関することが全く出てこ
ない。そうすると、その判決を書いた裁判官は、「たしかに観測
点では雨が降っていたかもしれない、しかし、事件現場では雨が
降らなかった可能性がある」といった判断をしました。気象条件
からは、専門家に言わせるとそこだけ雨が降らないことはあり得
ない、というのに裁判官の頭の中では、有罪を貫くには雨が降っ
てもらっては困るので、そこだけ降らなかったことになってしま
うのです。
別の例。強盗殺人罪を犯したと疑われている人が、捜査段階で
殺害方法について詳細な自白を繰り返してきました。その内容は
一貫していて、いわゆる「不合理な変遷」はありません。
ところが、裁判の中で、殺害の方法が異なることが明らかにな
ったのですが、裁判官曰く「自白の根幹部分は信用できる」とき
ました。
要は、よくわからないところがあって、自白の説明はデタラメ
だけど、「殺した」という事は信用できるから貴方は有罪、とい
う判断です。
こういうケースもあります。亡くなった被害者の血液型はA型、
事件現場に残された精液や毛髪等はAB型、犯人として逮捕され
た少年たちはB型とO型。
常識から考えれば、犯人はAB型の血液型の人間でしょう。
少年たちは犯人ではあり得ません。
しかし、裁判官は違います。精液や毛髪は別人のものの可能性
があり、被害者の垢(A)と犯人の唾液(B)が混じってAB型
を示した・・・
こんなことは、あり得ません。
でも、有罪です。
別の件。保険金目的放火殺人。自白のとおり再現すれば、犯人
は大やけどを負ってしまう。他方、実験結果からは自然に発火す
る可能性もあることが証明されている。それでも、裁判官は、実
験結果は無視して、とにかくむちゃくちゃな自白に基づき、有罪
を宣告。
志布志事件や富山で刑期終了後に真犯人が現れたケースも。犯
人でなくても、自白なんて簡単にしてしまいます。真犯人が現れ
なかったら、富山の事件も有罪のままで決して再審は認められな
かったはずです。そのときの弁護人が責められていますが、一番
悪いのは、被告人の話に全く耳を傾けなかった裁判官でしょう。
犯人でもない人が犯人に仕立て上げられてしまうのです。
市民参加が求められるのは、こんな非常識な判断で無実の人が
犯人に仕立て上げられること(冤罪)を少しでも防止するためです。
事実認定について、職業裁判官が一般市民より優れているなん
てことは決してありません。
もしも、裁判員に選ばれたなら、常識からしておかしいことは、
裁判官がなんと誘導しようとも、おかしいものはおかしい!と貫
いてください。それが、この制度の唯一の有益なところなのです
から。
弁護士 岡 根 竜 介
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