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岡根弁護士のぼやき論壇

  

死刑制度は残すべきか、廃止すべきか    〜 裁判員制度その6 〜

 5月21日から裁判員制度が導入されました。  有権者の中から無作為に選択された人の中から6名(ほかに補助裁判 員2名)が裁判員として刑事裁判に関与することになります。  すでに今年の裁判員候補者にはその旨の通知が来ているところですが、 実際に裁判員に選ばれるかどうかは個々の事件ごとの手続になります。  ですので、候補者になっても裁判所からの呼び出しが無く1年が過ぎ てしまうかもしれません。今日は、5月21日を過ぎてますので、既に 裁判員裁判が開かれているのか、というとそうではなく、5月21日以 降に起訴された特定の重大犯罪についてのみですから、現実に裁判員が 関与する裁判が始まるのは、7月末か8月からだろうと言われています。  さて、裁判員裁判対象事件は、法定刑に死刑を含むような重い犯罪が 中心ですので、裁判員に選ばれると、「死刑」と正面から向き合う必要 が生じ得ます。目の前にいる被告人が本当にその事件の犯人なのかを判 断し、死刑を宣告しこの世から抹殺することを選択するのかを決めなけ ればならないことになります。  判決を宣告するまでは、被告人は「無罪」と推定されています。した がって、検察官の主張する(被告人がその事件を犯したんだという)事 実が検察官の提出する証拠から疑いもなく認められるのかを裁く必要が あります。  これまでの裁判の中には、非常にいい加減なものも散見されます(日 野町事件もその一つ)。  問題は(いろいろありますがそれはさておき)、「無罪」と確信した 裁判員や「有罪」とは言い切れないと疑問を抱いた裁判員がいたとして も、多数決で「有罪」と判断されてしまうと、その裁判員も「有罪」を 前提に刑を決めなくてはなりません。  ですので、「死刑」の選択も多数決で決まりますから多数決で「死刑」 となれば、「この被告人は無罪だ」と確信している裁判員でも、死刑判 決を言い渡さなければならなくなってしまいます。袴田事件第1審に関 わり、今なお苦しみ続ける元裁判官のような苦悩を味わうことにもなり かねないのです。  ところで、1989年の国連総会では死刑廃止条約が採択され、日本 を含む死刑存置国に対しては「死刑の廃止を視野に入れた死刑執行の停 止」が呼びかけられています。2008年の国連人権理事会でも日本に 対し死刑を廃止するように求められています。死刑制度を今も残してい る国は、国際的には非常に少数です。  しかし、日本政府に死刑制度を廃止しようという動きはありません。 執行の停止をする動きもありません。逆に、近年厳罰化と言われる流れ の中で死刑判決や執行回数は増えてきています。2007年には9名が 執行され、2008年には15名が執行されました。  日本での死刑執行方法は、明治6年の頃から一貫して絞首刑です(数 年間は斬首などもあったようですが)。  現行の方法は、目隠しと後ろ手に手錠をはめられた状態で首に縄をか けられ、3人の執行官が一斉にスイッチを押すとそのうち1つが連動し て足元の踏み板が抜け、首つり状態となります。あまり想像したくない ですが、2階の部屋の床が抜けて、1階の床にまでは届かないところで 宙づりになるというイメージでしょうか。そのままの状態を数分間維持 することになります(執行に関わった医師の話によると、心停止まで約 15分と言われています)。首に荷重がかかった直後に意識を失うので 苦痛はない、とはいわれますが、本当にそうなのかは分かりません。  死刑制度については、いろいろな意見があると思います。  個人的には、えん罪の可能性が絶無にならない限り、無実の人が合法 的に命を奪われることを肯定する理由が見つかりませんので、廃止すべ きだとは思います。  仮に、真犯人が死刑執行された時、殺された方が生き返るのであれば、 肯定してもいいのかなとも思いますが、もしえん罪で死刑が執行された 場合(死刑執行したのに被害者が生き返らない)、誰の命と引き替えに その人を救うのかな?などと、あり得ない空想をめぐらせても、国際情 勢に習い廃止する方向が正しいような気がします。  制度論はともかく、現行刑法では法定刑に死刑があるわけですから、 その選択は法には反していませんが、「多数決」で死刑の選択をするこ とが本当にいいのでしょうか。裁判員制度を成功させるためにもこの点 は改善すべきと思います。  みなさんはどのようにお考えでしょうか。                 弁護士  岡 根 竜 介



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