雇用差別の禁止
性別による雇用差別の禁止は、労働法の中で極めて重要な位置を占めています。国連は、1979年に「世界の女性の憲法」と言われる女性差別撤廃条約を採択し、日本も1985年に批准しました。
憲法14条1項は法の下の平等を定め、憲法24条は婚姻をはじめとする家族生活における個人の尊重と両性の平等を定めています。
労基法は、均等待遇原則を定め(労基法3条)、女性であることを理由とする賃金差別を禁じ(労基法4条)、さらに男女雇用機会均等法(以下「均等法」といいます)は、賃金以外の全般的な性差別禁止を定めています。
男女賃金差別の禁止
労基法4条は、女性であることを理由に、賃金について、差別することを禁じています。
本条が禁止するのは「女性であることを理由」にした賃金差別なので、年齢や勤続年数、職務内容、職務上の地位・責任、勤務成績等を理由とした賃金格差は本条違反にはなりません。しかし、一見性別とは関係ない基準であっても、その基準が実際には一方の性の多くを排除したり不利益に取り扱う結果となる場合(間接差別)には本条違反となります。
男女雇用機会均等法
男女雇用機会均等法は、様々な差別禁止規定をおいています。
募集・採用についての差別禁止(5条)では、例えば、募集又は採用に当たって男女いずれかを排除することや優先すること、採用選考の方法や基準について男女で異なる取扱いをすること等が禁じられます。同法は、間接差別も禁じており(7条)、労働者の募集・採用において、労働者の身長・体重・体力を要件とすること、総合職の募集・採用にあたって転居を伴う転勤に応じられることを要件とすること等は禁止されます。
配置・昇進その他の事項に関する差別禁止(6条)は、賃金(労基法4条)、募集・採用(均等法5条)以外の労働条件全般について性差別禁止の対象を拡げるもので、配置・昇進・降格・教育訓練・福利厚生の措置・職種および雇用形態の変更・退職勧奨・定年・解雇・労働契約の更新の各事項について、男女のいずれかを排除すること(ex.時間外労働が多い勤務は男性のみとする)、男女で異なる条件を設けること(ex.昇進にあたり転勤経験を要件とすること)、人事考課の判断について男女で異なる取扱いをすること(ex.正社員への登用の条件 として男性は平均的評価以上、女性は特に優秀という評価を要求)等が禁止されます。
母性保護
労働法は、性別による雇用差別を禁ずる一方、女性が生命を生み育てるために有している月経、妊娠、出産、哺乳などの母性機能を保護するための規定を置いています
①危険有害業務の就業制限
妊産婦を坑内業務や重量物取扱業務、有害ガス発散場所での業務その他の危険有害業務に就かせてはなりません(労基法64条の2~3)。
②妊娠中の軽易業務への転換
使用者は、妊娠中の女性が請求した場合、他の軽易な業務につけなければなりません(労基法65条3項)。なお、いわゆるマタハラ事件として注目を浴びた広島中央保健生協事件で、最高裁は、妊娠中の軽易業務への転換を契機としてなされた女性労働者の降格処分は原則として均等法9条の禁ずる不利益取扱に当たり違法となると判断しました。
③妊産婦に対する時間外・休日・深夜労働規制
使用者は、妊産婦が請求した場合、1週40時間、1日8時間を超えて働かせてはなりません(労基法66条)。
④育児時間
生後満1歳にみたない子を育てる女性は、休憩時間の他に、1日2回各々少なくとも30分、育児時間の取得を請求できます(労基法67条)。
⑤生理休暇の付与
使用者は、生理日の就業が著しく困難な女性が休暇を請求したときは、その女性を生理日に働かせてはなりません(労基法68条)