特別対談(2)
京大人文研所長・山室信一x「憲法9条京都の会」事務局長・小笠原伸児
過去の事例は自衛と無関係
山室
第1次の安保法制懇では、集団的自衛権が行使できる4類型(注4)を答申しましたが、今回は類型化ではなく全面的に認める答申を出すとされています。
小笠原
既に北岡(伸一・国際大学学長)座長代理が「情勢が以前より切迫している」として、示唆する発言を行っていますね。
山室
そもそも、集団的自衛権行使を容認する立場の有識者だけを10数人集めた私的諮問機関の答申で、憲法解釈のみならず国家の存亡に密接に関わる安全保障の根幹までが決定されてしまう事態には根本的な疑問を感じます。
小笠原
「集団的自衛権は国連憲章で権利として認めているのに行使できないのはおかしい」という俗論がありますが、国連憲章は原則として武力行使を違法としています。それを例外的に安全保障理事会が決議して、集団安全保障の措置をとるなかで軍事的行動がありうるというものです。そして、安保理がそういう措置を行うまでの間に個別的・集団的自衛権を認めることを国連憲章51条(注5)で定めている。個別的自衛権であっても本来は非常に制約的な内容です。
山室
同盟する権利を保持しながら永世中立を堅持するスイスという国もあるように、法律論として何の問題もありません。そういう俗論を振りまく政治家や専門家の見識を疑います。とにかく、集団的自衛権そのものが元々、アメリカや旧ソ連が軍事同盟の存在を前提に国連憲章に盛り込んだものです。過去の事例を見れば、自衛とは無関係のものばかりです。
小笠原
アメリカによるベトナム戦争や旧ソ連のチェコ侵攻、近年では、アフガニスタンへの「報復」戦争など侵略戦争・軍事介入の口実にされてきたのが実態ですね。
専守防衛放棄する海兵隊化
山室
本来平和憲法を持つ日本が最も反対の声を上げなければいけないはずです。今回憂慮すべきことは、安保法制懇の「行使容認」の答申を見越して、「防衛大綱づくりに向けた中間報告」(注6)では、戦後維持してきた専守防衛という原則から外れる海兵隊機能の確保などが掲げられています。
小笠原
ええ、防衛省は年末に策定する新しい防衛大綱を先取りするように来年度概算要求で自衛隊の”海兵隊化”と敵基地攻撃能力の保有を進める大軍拡の内容を盛り込みました。具体的には、米海兵隊が使用する水陸両用車両や長距離攻撃と爆撃能力を持つ最新鋭のF35戦闘機の購入などです。もはや専守防衛の大義名分を投げ捨てています。
山室
集団的自衛権行使に向けた動きと新防衛大綱、防衛省の概算要求は一体のものです。しかし、1つひとつの動きは9条の明文改憲のように目立つものではないだけに、今の憲法体制をなし崩し的に変えてしまう施策に警鐘を鳴らさなくてはいけません。
安保条約での従属性強まる
山室
先ほど小笠原さんがおっしゃった「アメリカと一緒に戦争する」ということの中心には当然、日米安保条約の体制があります。湾岸戦争以来、アメリカは日本に対して米軍の軍事的行動の一端を担えという圧力をかけ続けています。一方で安倍首相は、集団的自衛権を行使できるようになって初めて日本は安保条約における「片務性」を解消し、米国と「対等」の関係に立つことができると主張しています。しかし、日本は基地の提供をしており、この理解は根本的に間違っています。
小笠原
その通りですね。「アメリカと一緒になって」とは、まるでそこに日本の主体的、自主的な判断があるかのようですが、実際はアメリカの世界的な軍事戦略の中に自衛隊が組み込まれていく従属関係です。
山室
ええ、集団的自衛権行使を容認することで「片務性=従属性」はいっそう強まりますよ。果たして、これによって沖縄の米軍基地を全部撤去せよと主張できるのでしょうか。
小笠原
沖縄県民の総意を無視してオスプレイを強行配備し、今、京丹後市経ヶ岬に近畿初の米軍基地(Xバンドレーダー)を設置する動きもあります。平和憲法と両立しない安保条約の問題は常に問い続けなければいけない問題です。
山室
沖縄の怒りは頂点に達しているのに、安倍首相はアメリカに行って辺野古での新基地建設を約束してくる。国民の声を聞かずにアメリカばかり向いている。しかし、オバマ政権は日本の軍事的役割の拡大を求める一方で、東アジアの緊張を激化させる動きには慎重な姿勢も見せています。
小笠原
中国を刺激したくないという”苦慮”が垣間見えますね。いずれにせよ、軍事同盟が20 世紀の遺物となったもとで、日米軍事同盟を強化し、東アジアに緊張をもたらすようなやり方は時代逆行です。
【注4】(1)公海上で米艦船が攻撃され、自衛隊が反撃する(2)米国に向かう可能性がある弾道ミサイルを日本が撃破する(3)国連平和維持活動(PKO)で他国部隊が攻撃され、自衛隊が反撃する(駆けつけ警護)(4)PKO等で自衛隊が外国軍隊を後方支援する―第1次安保法制懇は、これら4類型について自衛隊が対応できるようにすべきと答申しました。
【注5】自衛権について規定。「この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない」としています。
【注6】今年7月に防衛省が発表。日本の軍事政策や軍事力の規模を決める「防衛大綱」策定に向けて、北朝鮮を念頭に戦闘機やミサイルなどで敵の発射基地を攻撃する「敵基地攻撃能力」の保有の検討や「島しょ部攻撃への対応」を口実に、自衛隊の「海兵隊的機能」の整備などを求めています。
(「週刊しんぶん京都民報」2013年9月15日付掲載)