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『集団的自衛権、米、行使容認迫る「弾道ミサイル迎撃を」防衛相会議』
−5月16日 京都新聞朝刊−
今年5月3日、憲法が施行されて満60年を迎えました。この間、これに関連した記事
や、国民投票法案、イラク派兵、集団的自衛権など、憲法に関する記事、論評、社説がい
つもより多く取り上げられました。
上の記事は、4月末にワシントンで行われた日本の久間防衛大臣とアメリカのゲーツ国
防長官の会談でゲーツ米国防長官が、憲法で禁止されている集団的自衛権の行使を認める
よう久間防衛大臣に迫ったことを報じたものです。
安倍首相は、憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使できるよう有識者会議を設置して
、今後研究を進める方針ですが、この問題は、憲法の平和主義、自衛隊のあり方にとって
変更重大な問題を含んでいます。
まず、上の報道の解説記事の中でも説明されているとおり、2003年にミサイル防衛
システムを導入することを当時の小泉内閣が閣議で決定した際、当時の福田官房長官は
「あくまでも我が国の防衛を目的とするもので、第三国の防衛のために用いられることは
ない」と談話で明言しました。
なぜなら、日本の自衛隊は、日本を防衛するための必要最小限度の実力組織であり、自
衛のための必要最小限度の反撃しか憲法上認められないというのが、歴代の政府の一貫し
た憲法9条解釈だったからです。自衛隊は、自衛のための組織であること、実力行も自衛
のための反撃の限度で、かろうじて憲法上許されるというのが政府の一貫した態度なので
す。
ですから、日本が攻撃されていないのに、アメリカが攻撃されたからといって、これに
武力を行使することはできない、というのが政府の立場でした。
先の福田官房長官(当時)の談話がミサイル防衛システムを憲法上許されるとするには、
「わが国の防衛を目的をする」ものであると言う以外にないのです。
従って、上の報道のとおりに久間防衛大臣がアメリカの要請に応じることは、先の福田
官房長官談に反することになるとともに、憲法上許されない武力行使をすることになりま
す。
そこで、安倍首相は、憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を合憲化しようという方
向を目指しているのですが、憲法9条や集団的自衛権に関してこれまで積み上げられてき
た政府解釈を変えることは、もはや解釈の変更という枠に収まらないように思われます。
いくら憲法解釈に一定の幅があると言っても、180度異なるような変更は、解釈による
変更ではなく、憲法を侵害する行為が行われたという結論になるだけです。
憲法を尊重し擁護する義務を負う国務大臣からなる内閣としては、憲法上許されないは
ずです。
そして、解釈の変更によっては、集団的自衛権が行使できないため、一昨年、自民党が
公表した新憲法草案のように、憲法を改正して集団的自衛権を行使する方向を目指すこと
が追求されるのですが、そうすると、現在の憲法が想定している平和主義は明らかに変質
してしまうように思われます。国家や社会全体が、例えば、イギリスとアメリカとの関係
のように、国際的な紛争を戦争や武力行使で解決することができるシステムに変質しまう
のではないでしょうか。
話世論調査の結果を報道しています。この世論調査によると、集団的自衛権行使は、憲
法で禁じられているという政府解釈は、「今のままでよい」とする人が62.0パーセン
ト、「憲法解釈を変更し行使できるようにすべきだ」という人が13.3パーセント、
「憲法を改正し、行使できるようにすべきだ」という人が19.1パーセントであった、
ということです。
集団的自衛権は憲法で禁止されている、というのは安倍首相がいう「戦後レジーム」か
もしれません。しかし、戦後レジームにもその成り立ちの経過やそれ以外選択の余地が考
えられず、しかも、現在でもその存在理由が十二分に認められるものがたくさんあるよう
に思います。あまり、抽象的な掛け声に目を奪われすぎると、大事なものまでなくしてし
まうことがあるように思います。
弁護士 高 山 利 夫

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