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高山弁護士のニュース時評


給油継続できねば退陣−テロ特措法「首相職を賭す」−

                    京都新聞9月10日付朝刊      −安倍首相が辞意−同9月12日付朝刊−  安倍首相が9月12日退陣することを表明しましたが、その記者会見で退陣の理由の1 つとされたのが、テロ特措法に基づいて、海上自衛隊がこの6年間、インド洋で行ってい るアメリカなどに対する給油活動の継続のめどがたたない、ということでした。安倍首相 はその2日前の9月10日の、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の際の記者会 見では、「職を賭す」とその決意を述べていたのですが、大方の報道が指摘しているとお り、「職を投げ出して」辞任してしまいました。  テロ特措法は、01年9月11日のアメリカでのいわゆる同時テロを受けて、アメリカ が中心となってアフガニスタンで行うテロリスト掃討のための軍事行動を自衛隊がインド 洋で後方支援するための法律です。初めは、2年間の時限立法で成立しましたが、03年 に2年、05年、06年に各1年間延長され、今年11月1日期限切れをむかえます。  このテロ特措法に基づいて、01年12月から07年7月まで、海上自衛隊は、アメリ カ、パキスタン、フランスなど11カ国に艦船用燃料約48万キロリットル(約219億 円)、艦艇搭載ヘリコプター用燃料約940キロリットル(約5470万円)、水約61 70トン(約631万円)を提供したと報じられています。  民主党は、この活動の延長に反対し、世論調査でも賛否が拮抗していますが、この活動 の問題点については、政局の動向とは別に冷静に考える必要があります。  まず、アメリカがアフガニスタンを攻撃することの問題です。国連憲章51条は、国連 が行動するまでの間、個別的自衛権及び集団的自衛権を行使することを認めていますが、 これは、武力攻撃を受けたことが条件とされています。9.11同時テロが、当時アフガ ニスタンにアルカイダの多くのメンバーが滞在していたとしても、アフガニスタンという 国家の武力攻撃といえるかどうか疑問なしとしません。まして、9.11から6年を経過 した現在、アメリカが武力攻撃を受けていないことは明白です。アメリカのアフガニスタ ンに対する空爆がもっとも被害と打撃を与えているのはアフガニスタンの国土と民衆では ないでしょうか。  また、仮に百歩譲って、アフガニスタンへの攻撃が許されたとしても、アメリカの軍事 行動に日本が後方支援といえども軍事的な協力をすることは、日本の憲法が禁止している 集団的自衛権の行使にあたると言えます。民主党の小沢代表が給油活動の継続に反対して いる理由の1つは、このためです(京都新聞9月12日付第2面)。  安倍首相は、この集団的自衛権の行使について、解釈を変更して、行使を認める方向を 打ち出すために「有識者会議」を設置していましたが、憲法の基本原則に関わる解釈を時 々の政府が安易に変えることは、憲法に基づく政治の原則(立憲主義)から許されないよ うに思われます。  さらに、そもそもテロ対策、テロ阻止という目的にとって、戦争という手段は、ほとん ど解決に役立たないのではないか、ということも考えてみる必要があると思われます。約 6年間にわたり、アメリカが圧倒的な軍事力を行使しても、ビン・ラディンやアルカイダ は健在であるかのような報道がなされる一方、アメリカの空爆によって、アフガニスタン はますます荒廃し、そのの復興も極めて厳しくなっているという指摘があります。こうし たことが続く限り、結局、テロを生み出す土壌はなくならないのではないでしょうか。  戦争や報復から離れて、あらためて、国際社会でテロをなくす道について考える必要が あると感じます。 弁護士 高 山 利 夫



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