1. >
高山弁護士のニュース時評


「取り調べに監督基準−冤罪事件受け警察庁が指針」

−1月24日付京都新聞夕刊−  昨年、富山県の強姦えん罪事件や鹿児島県の選挙違反無罪判決が注目を集めましたが、 警察庁が、1月24日、両事件の検証結果を発表するとともに、「取り調べ適正化指針」 をまとめたことが報道されました。  まず、両事件の検証結果をみますと、鹿児島県の選挙違反事件では、「長期間、長時間 にわたる強圧的な取り調べ」があったことを指摘し(元被告人の1人については、病院で 点滴を受けた状態で、座っての事情聴取に耐えられず、簡易ベッドに横たわる状態で7時 間もの取り調べが行われ」、「1日に13時間40分の取り調べもあり」、元被告人の1 人は、「正直に言わなければ家族も取り調べるぞ」と脅されたと証言しているとのことで す。  また、両事件ともアリバイがありましたが、捜査の際には、いずれも裏付け捜査が行わ れていなかったと指摘されています。  この検証結果に対し、鹿児島県の選挙違反事件で無罪判決を受けた被害者のお1人は、 「どのように事件がつくりあげられたのか、真相が明らかにされていない。きれいごとば かり並べており、またこういう事件が起きる気がする」と語り、富山県の強姦えん罪事件 の主任弁護人は、「脅迫や見取図を無理やり書かせた事実が書いていない。真摯に反省す るなら、どう責任を取るのかを示し、捜査過程で何があったかオープンにすべきだ」と訴 えている、ことが報じられています。  捜査、とりわけ取り調べの適正について、戦後くり返し指摘されてきたことが、いまだ に改善されていないことへの憤りと落胆を覚えざるを得ません。  そもそも、警察庁は、これらの検証にあたって、内部的に検証することは当然としても、 当事者(被害者)や他の中立的な第3者の意見を取り入れた検証を行う必要があったと思 います。  これに関連して、捜査を警察から引き継いだ検察庁(検察官)やとくにいったんは有罪 の実刑判決を言い渡した裁判所(裁判官)は、どのような感情をもって、この報道を読ん だのでしょうか。他人事ではなかったはずです。  次に、警察庁がまとめた「取り調べ適正化指針」ですが、これによると、捜査部門以外 が取り調べを監督・監視し、容疑者の尊厳を著しく害する言動や体に触れることを監督対 象行為と規定し、対象行為が確認された場合はやめさせ、懲戒対象になりうる、としてい るとのことです。  この「適正化指針」の最大の問題点は、警察の同僚が同僚を監督、監視することではた して実効性があるか、ということに尽きると思われます。昭和50年代に、いわゆる死刑 再審無罪判決があいついだ際、警察庁は、代用監獄(警察署の留置場のこと)がえん罪の 温床になっているという日弁連などの指摘に対し、捜査と留置を担当する部門を分離し、 留置が捜査、とりわけ自白の強要に利用されることはないと反論していました。しかし、 実際には、富山県のようなえん罪事件があいかわらず発生したのです。  取り調べの適正化については、やはり日弁連などが求めている可視化(すべての取り調 べ過程を録音、録画する)に踏み切る以外にないように思います。                    弁護士 高 山 利 夫



<トップページへ>