1. >
高山弁護士のニュース時評


「社会が縮こまっていいか」

−朝日新聞4月12日付社説− 04年1月、東京都立川市の防衛庁宿舎で、市民3人が、自衛隊のイラク派 兵反対などと書いたビラを各戸に配布したことが住居侵入罪に問われた事件に ついて、4月11日、最高裁は3人の上告を棄却しました。 この事件の一審の東京地裁八王子支部の判決は、「(3人の行為は)住居侵 入罪を構成するが、プライバシー侵害の程度は低く、刑事罰を科すほどの違法 性はない」として全員無罪を言い渡しました。しかし、東京高裁が逆転有罪判 決を言い渡し、最高裁も、この宿舎ではビラを禁じる掲示がされ、被害届も出 ていたとして、「一般に自由に立ち入りできる場所ではなく、管理権と住民の 私生活の平穏を侵害」したとして、有罪としたのです。 しかし、私たちの日常の生活で感じているように、商業用の広告ビラは、一 般の立ち入りが禁止されているマンションでも広く配布されているのが実態で す。この事件の防衛庁宿舎でも同じでしょう。この官舎の管理権者は、商業用 の広告ビラを配布した人物に対し、被害届を出したのでしょうか。政治的な意 見を表明するビラの配布は犯罪視され、商業用のビラの配布は結果として大目 に見られている、という差別的な取扱の実態はないでしょうか。 上記社説が指摘するとおり、最近、映画「靖国」が上映中止になったり、日 教組の集会をホテルがいったん受け入れ、裁判所の決定まで出たにもかかわら ず、断ったという事件が起きています。表現の自由は、力の強い人よりも、一 般市民が、或いは社会の少数の人にこそ保障されなければならないと思います。 先の最高裁判決は、表現の自由について、「特に重要な権利で尊重されるべ きだが、その手段が他人の権利を不当に侵害することは許されない」と指摘し ていますが、最高裁が本当に表現の自由について特に重要だと考えているので あれば、一審判決のように違った結論になったはずです。 この事件では、ビラを配った3人は罰金10万円から20万円の有罪判決を 受けましたが、それにしても、ビラを配っただけで、裁判所は起訴後保釈を認 めず、75日間も警察留置場に拘留されるというのは異常と言うべきです。こ うした捜査をした警察、検察官もさることながら、これを追認した裁判所の姿 勢も問題です。 裁判員裁判を導入して、司法に対する国民の信頼を向上させるといいますが、 こうした裁判所では、一部の力の強い人しか信頼できないのではないでしょう か。                    弁護士 高 山 利 夫



<トップページへ>