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高山弁護士のニュース時評


「マクド、店長に残業代−手当廃止 給与増えず」

−5月21日付朝日新聞朝刊−

「トヨタ、カイゼンに残業代、業務と認定 上限撤廃」

−5月22日付同朝刊−  日本マクドナルドとトヨタという日本を代表する企業の残業代をめぐる記事が 続きました。企業が本来支払うべき残業代を支払わないのは、労働基準法に違反 する犯罪です。トヨタやマクドナルドの労働組合は、今まで何をしていたのでし ょうか。御用組合という言葉がありますが、どうなのでしょうか。また、本来、 労働基準法違反がないように監督するべき労働基準監督署は何をしていたのでし ょうか。法律があっても守らない、違反が長年行われていても取り締まらないと いうのは、社会を劣化させるものです。  それにしても、マクドナルドの対応は疑問です。今年1月、マクドナルドの直 営店の店長が未払いの残業代の支払いを求めた訴訟で東京地裁は、約750万円 の支払を命じる判決を言い渡しました。各新聞は、こぞって「名ばかり管理職」 に残業代を支払わない労務管理のあり方を批判しました。しかし、マクドナルド は、店長の残業代を「さかのぼって支払うことはない」そうです。先の判決に対 し、控訴して争っている以上、そのように言わざるを得ないのかもしれませんが、 高裁判決によっては、方針をかえるのでしょうか。  しかも、上記報道によれば、マクドナルドは、残業代を払う代わりに、店長手 当などの職務給を廃止する、とのことです。  しかし、残業代は、法定労働時間以上働いた場合に、法律上当然に支払うべき ものです。店長手当などの職務給の支払いの有無にかかわらず、労働基準法上の 除外事由にあたらない以上、支払う義務があるものです。残業代を払うので、他 の手当を払わなくてよい、というものではありません。仮に、残業代を払うかわ りに、職務給を廃止した場合、法的に許されない就業規則の不利益変更に該当す る可能性があります。こういう対応は「待遇改善」とは言わないはずです。  また、上記報道のトヨタのケースは、約半世紀にわたって、国内の生産現場の 全従業員約4万人が全員参加していた活動だそうです。これまで、トヨタは、月 2時間までの残業代しか支給していなかったそうです。しかし、トヨタの「カイ ゼン」活動は、人事評価の対象であり、土日や有給休暇をつぶして行われており、 社員や家族は「事実上強制された業務」と見ていました。昨年12月、名古屋地 裁が過労死をめぐる訴訟で、「カイゼン」活動について、使用者の支配下におけ る業務と認定していました。  マクドナルドのお手軽な商品やトヨタの企業としての高収益が、仕事に対して 残業代も支払わないやり方に支えられていると考えたくはありません。                    弁護士 高 山 利 夫



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