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高山弁護士のニュース時評


「残業代」38億円、過去5年で最多、京都市07年度、  財政難、職員減ってるのに・・・支給上限廃止で増加

−10月13日付京都新聞朝刊− 上記の報道は、京都市職員の残業代にあたる「時間外勤務手当」の支給額が年々増え、 07年度は03年度と比べて4億円近くも増加し、約38億3200万円と過去5年間 で最も多くなったと報じています。同市人事部は、「07年度は参院選や後期高齢者医 療制度の準備などで忙しかった。職員減少で職員一人当たりの残業代アップはやむを得 ない」としているとのことですが、上記の報道は、「財政が「非常事態」にある中、効 率的な職員配置を含め時間外勤務の在り方が問われそうだ」と結んでいます。 京都市の財政が「非常事態」であるか否かに関わらず、職員配置は効率的である必要 があります。 しかし、上記の報道には、新聞社として当然理解しておくべき、労働基準法に対する 理解や市当局が使用者として負っている職員の健康管理の責任に対する理解が不十分で あるように思われます。このことは、不適切と思われる見出しに反映しています。 まず、「職員減ってるのに・・・」という見出しです。職員数が削減され、市全体の 業務が変わらなければ、いくら効率的な職員配置をしても時間外勤務が増えることは当 然ありえるのでしょう。住民の福祉の向上を責務とする地方自治体が、職員を削減しな がら、住民サービスの水準を維持しようとすれば、当然職員一人当たりの業務量は増え、 従って時間外勤務も増えることになります。それを避けようとするならば、職員数を適 正に増加する必要があるはずです。上記報道の見出しは、まず事実の認識の点で誤って いるか、不適切のように思われます。 次に、「支給上限廃止で増加」という見出しの誤りです。時間外勤務手当が増加する のは、「支給上限廃止」のためではないはずです。もともと同手当の支給を必要とする 時間外勤務が増えていることが法律的には唯一の理由です。 そもそも、時間外手当の「支給上限」を定めること自体が労働基準法上違法なことで す。上記の見出しは、この記事を書いた記者の労働基準法に対する理解を如実に示すも ので、新聞社として誠に不適切と言うべきです。そもそも、京都新聞社では、残業代の 支給について、上限を使用者が決めても法律上問題ない、と考えているのでしょうか。 その上、上記報道の記事には、「この結果、残業代が増え始め、07年度の時間外勤 務時間が最も長い職員は1630時間に達し、上位10人はいずれも1300時間を超 えた」としています。この部分は、支給上限廃止の結果という意味であれば、上述のと おり誤りであり、時間外勤務が1300時間という時間数が長すぎる、即ち残業代が多 すぎるとう点だけに着目しているのだとすれば、最も大事な点を見落としているように 思われます。それは、職員の健康問題です。年間1300時間という時間外労働時間は、 1ヶ月に平均すると優に100時間を超えます。過労死しかねない時間数です。このよ うな長時間労働に職員を従事させること自体、使用者の安全配慮義務に違反している疑 いがあります。 新聞報道については、最低限法的枠組みやルールを踏まえることが望まれます。                     弁護士 高 山 利 夫



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