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裁判員制度を考えるB
これまで、裁判員制度は国民の常識を裁判内容に反映させ、よりよい刑事裁判
をめざす制度であり、国民が直接参加することが国民主権や民主主義にふさわし
い、と述べてきました。
それでは、これまでの職業裁判官による刑事裁判はどうだったのでしょうか。
裁判員制度を設計した裁判官は、「現在の刑事裁判が基本的にきちんと機能し
ているという評価を前提として」いると述べています。最高裁は司法制度改革審
議会が裁判員制度の導入を提起する際、一般の国民が裁判の評決権をもつことに
消極的意見を述べましたが、最高裁のこのような国民参加に対する消極的意見は、
「現在の刑事裁判はきちんと機能している」という評価と国民に対する信頼の欠
如が結びついたものと言えます。ただ、この最高裁の消極意見はほとんど支持さ
れませんでした。
しかし、1980年代に著名な刑事法学者が著書の中で、わが国の刑事司法は
かなり絶望的である、と述べています。また、刑事裁判を実際担当する多くの弁
護士が同じ感想を持っていると思います。80年代までに、いったん裁判所が死
刑判決を言い渡し、死刑が確定した事件が再審で無罪となる例が4件も出ていま
した。この間も、選挙違反事件を警察、検察がデッチあげた鹿児島の志布志事件、
強姦事件で自白を強要され有罪が確定し、服役後、真犯人が見つかった富山の氷
見事件などえん罪が絶えません。地球温暖化問題でベストセラーになった「不都
合な真実」という本がありましたが、これらの再審事件、えん罪は、「現在の刑
事裁判はきちんと機能している」と述べる裁判官にとっては、「不都合な真実」
なのでしょう。
しかし、えん罪は国家とその役人が犯す最悪の人権侵害であり犯罪だと思いま
す。それを生み出す原因と対策が真摯に検討されなければならないと思います。
裁判員制度がスタートしても、これまでえん罪を少なからず生み出してきた原
因が取り除かれなければ、裁判員として参加した国民がえん罪にかかわることに
なってしまいます。
次回は、えん罪を生み出す原因を考えたいと思います。
弁護士 高 山 利 夫

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