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裁判員制度を考えるC
今回、刑事裁判の現状について述べます。
1980年代に免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件と相ついでいったん死
刑判決が確定した後、再審で無罪となる事態がおこりました。これらの事件で共
通しているのは、警察でウソの自白を強要され、その自白が有力な証拠として有
罪の重要な決め手になり、裁判所(官)もそのことが見抜けなかったことです。
当時、元東京大学の総長で著名な刑事法学者が、「わが国の刑事裁判はかなり
絶望的である」と著作の中で論じた程でした。
その後も、たびたびえん罪、誤判事件がおこり、一昨年にも、鹿児島県の選挙
違反事件、富山県の強姦事件のえん罪がおきています。
このようなえん罪、誤判を生み出している原因は、日弁連などがくり返し指摘
しているように、代用監獄制度、裁判所(官)による調書裁判、人質司法、そし
て、職業裁判官の有罪なれです。
まず、代用監獄制度です。代用監獄制度という言葉は一般には聞きなれない言
葉ですが、被疑者の勾留を取調べのために利用する制度です。本来、勾留は、裁
判所が証拠の隠滅や逃亡を阻止するために、警察以外の施設で行うものですが、
日本では、警察の留置場で勾留するため、警察は最大23日間、被疑者の身柄を管
理し、いつでも好きなときに取調べに利用することが可能になっているのです。
ヨーロッパやアメリカの刑事手続では、いったん裁判官が被疑者を勾留した後、
再び警察に身柄の拘束を委ねることはありません。かつて、日本の代用監獄と同
じようなシステムは日本とイスラエルぐらいにしかないなどと言われていました。
国連でも、日本政府は、自由権規約委員会から、再三、代用監獄制度を改めるよ
う勧告を受けていますが、無視し続けています。
こうした代用監獄制度の下で、被疑者とされた人が警察からウソの自白を強要
され、えん罪、誤判を生み出してきたのです。このため、日弁連などは、代用監
獄制度の廃止を求めてきました。
そして、事件が裁判所に起訴された後、今度は、有罪なれした裁判所(官)の
調書裁判で、被告人が自白の任意性や信用性を争っても、裁判所(官)は、これ
を証拠として認め、ウソの自白がそのまま有罪認定の証拠とされてきたのです。
従って、本来、裁判員制度が導入されるにあたり、裁判員が正しく有罪、無罪
を判断できるよう代用監獄制度については廃止するか、少なくとも取調べの全過
程が録画、録音されるシステムが採用されるべきでした。しかし、そのいずれも
実現しないまま、裁判員制度が導入されたのです。
弁護士 高 山 利 夫

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