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高山弁護士のニュース時評


裁判員制度を考えるE

裁判員裁判では、公判の審理に入る前に必ず公判前整理手続という公 判審理の準備のための手続が行われます。その目的は、充実した審理を 継続的、計画的かつ迅速に行うためです。つまり、一般の国民が審理に 参加し、直接証拠を見聞し、審理終了後、有罪、無罪、刑の重さを決め る以上、これまでの刑事裁判の実務のように五月雨式の審理を行いなが ら、法廷の内外でじっくり証拠を吟味する−−時には裁判官内で、ある いは自宅で−−ことはできず、連続した集中審理が必要なためです。    そして、連続した集中審理を行うため、予め主張と証拠を整理し、審 理日数の見通しを立てるのです。  したがって、裁判員裁判は、人質司法、調書裁判という従来の裁判の あり方だけではなく、審理のあり方自体をかえ、審理日数−−もちろん 事件によって異なるでしょうが−−も大きくかえることが予想されます。 また、この公判前整理手続では、新たに、被告人、弁護人の証拠開示 制度も設けられ、被告人、弁護人の防御権にも一定の配慮が示されてい ます。    ただし、この証拠開示制度でも捜査側の手持ち証拠がすべて開示され る訳ではありません。捜査側が被告人に有利な証拠を開示しなかったた め、誤って有罪判決を受けたり、えん罪の汚名を着せられた例があるこ とを考えると、さらに、少なくとも証拠の一覧表が示されるなど証拠開 示制度が拡充される必要があります。 さらに、この公判前整理手続については、裁判所が過度に、あるいは 行きすぎた主張と証拠整理の姿勢をとり、真相解明にとって、あるいは 被告人の防御に必要な主張と証拠を制限するのではないかという危惧が あります。  審理に参加する一般国民がどのくらい審理に拘束されるのかある程度 明確な見通しを立てることは必要ですが、他方、刑事裁判の生命という べき真相解明と防御権が軽視されてはならないと考えます。                     弁護士 高 山 利 夫



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