大学1年生の時からだから、京都に住んで、もうン十年になる。
本書の書き出しに「京都は、一筋縄ではいかない」とあるが、自分がいかに京都のことを知らないか、この本を読んであらためて思い知った。
本書は以下の5章から成る。どこから読んでも十分楽しめる。
第1章 不思議地図[京都の謎を歩く]
第2章 新名所案内[ガイドブックに載らないもうひとつの京都]
第3章 魔界案内[京都ミステリースポットをめぐる]
第4章 珍名・奇名[ユニーク地名のルーツをさぐる]
第5章 歴史地図[都誕生の陰に”地の利”あり]
例えば、
第1章では、五山の送り火の中で、大文字山の「大」の字だけが国土地理院の「地理院地図」に載っているという意外な事実などが紹介されている。
また路面電車が初めて走ったのも、初めて小学校が誕生したのも、そして初めて駅伝がスタートしたのも京都だった。
第2章では、東福寺(東山区)には全国唯一の室町時代のトイレがあること、泉涌寺(東山区)には楊貴妃観音像があること、清水寺(東山区)には蝦夷の首長の慰霊碑があること、「蚕の社」(かいこのやしろ。右京区)には三本足の鳥居があること、竜安寺(右京区)の石庭の15の石の謎等々、どれも訪れたことがある寺なのに知らないことばかり。
観光名所としてではなく、かような「隠れ名所」を見に行きたくなる。
第3章は「ミステリースポット」。
京都は雅で華やかなイメージがあるが、他方で、魑魅魍魎が跋扈したというようなおどろおどろしい場所も少なくない。平安時代、民衆の亡骸が捨てられた場所は、鳥辺野(とりべの)、化野(あだしの)、漣台野(れんだいの)。三条大橋がかかる三条河原は、1594年には大盗賊の石川五右衛門が釜ゆでの刑に処せられ、1600年には関ヶ原の戦いで敗れた石田三成の首もここにさらされた。堀川一条にある「一条戻橋」(いちじょうもどりばし)は死んだ人が生き返るという謂れがある。
第4章の珍名・奇名も面白い。
京都の地名には、「鞍馬口」や「丹波口」「荒神口」など「口」がつく地名が多いが、これらの「口」には、関所がおかれ、幕府が通行税などを徴収していた場所だったとのこと。
また、奇妙な名前の通りや町名もある。例えば、「天使突抜」(てんしつきぬけ)という名前の通りや町がある。下京区の西洞院通りと油小路通りの間の南北の通りが「天使突抜通り」で、その両側の町が「天使突抜町」である。以前の依頼者の住所が天使突抜町だったので、私はその時初めてこの町名を知った。「天使」は、ずっとエンジェルのことかしらと思っていたが、本書では、「天使」とは「天から降った神」のことで五條天神宮の祭神を指すとのこと。豊臣秀吉が京都の大改革を強引に推し進め、五條天神の境内の中に1本の通りが貫通することになったことから、「天使突抜」と名付けられた。
第5章「歴史地図」では、かつて京都南部には、琵琶湖に次ぐ巨大な池(巨椋池:おぐらいけ)があったが埋め立てられたこと、京都には戦国時代には50もの城があったことなど、京都の歴史から解説されている。
いつも見ている景色も、歴史を知って見ると、なぜか変わってみえてくる。
実に面白い。