1. 女性弁護士の法律コラム

女性弁護士の法律コラム

2023年10月から、地域別最低賃金が改定されました。

 

最低賃金とは、最低賃金法という法律にもとづくもので、これを下回る賃金で労働者を働かせてはならないという最低の賃金を定めるものです。

従って、仮に労使で最低賃金よりも安い賃金を合意しても無効となり、労働者は差額を請求することができます。また、法律違反の使用者には罰則も科せられます。

 

京都は従来の時給968円から1008円に(10月6日から)、滋賀は従来の時給927円から967円に(10月1日から)、大阪は従来の時給1023円から1064円にそれぞれ改定されました。

 

ご相談は、各都道府県の労働局まで。

 

仕事が原因でうつ病などの精神障害を発症した場合に、それが労働災害にあたるかどうかの認定基準は2011年に策定されましたが、それが、2023年9月1日、12年ぶりに改正されました。

 

主な改正点は、下記の4点です。

①心理的負荷(ストレス)の具体的出来事に、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」こと(いわゆるカスタマーハラスメント)が追加されました。

 

②心理的負荷(ストレス)の具体的出来事に、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」ことが追加されました。

 

③心理的負荷の強度の具体例が明記されました。

 例えば、カスタマーハラスメントで、心理的負荷の強度が「弱」「中」「強」になる例がそれぞれ挙げられています。  

 

④精神障害が「悪化」した場合の業務起因性の判断が変更されました。

業務以外で既に発症していた精神障害が、業務によって「悪化」した場合の労災認定の範囲を見直しました。

 従来は、「悪化」前おおむね6ヶ月以内に「特別な出来事」(特に強い心理的負荷となる出来事)がなければ、業務と「悪化」との因果関係が認められませんでした。

 しかし、今回の改正では、「悪化」前おおむね6ヶ月以内に「特別な出来事」がない場合でも、「業務による心理的負荷」により悪化したと医学的に判断されるときには、業務と「悪化」との間の因果関係が認められます。

 ただ、「悪化」の基準は明確には示されていません。

 

この新しい認定基準は、厚生労働省のホームページに掲載されています。

 

 

 

 

戦後、唯一の自衛隊違憲判決~長沼一審判決~

「以上認定した自衛隊の編成、規模、装備、能力からすると、自衛隊は明らかに・・・憲法第9条第2項によってその保持を禁ぜられている『陸海空軍』という『戦力』に該当する」

 

1973(昭和48)年9月7日、札幌地裁(福島重雄裁判長)で言い渡された、この判決は、長沼第一審判決と呼ばれ、戦後、唯一の自衛隊違憲判決である。

 

大学の教養部の「憲法」の講義の中で初めて知り、その後、学部の「憲法」の講義でも聴き、更に、司法試験の受験勉強の中でも学んだ。

 

長沼事件とは、北海道夕張郡長沼町の馬追山にできる地対空ミサイル基地(現、航空自衛隊長沼分屯基地)の予定地について、国有保安林指定を国が解除したため、長沼町民が保安林指定解除処分の取消と自衛隊の違憲性を求めて争われた行政訴訟である。

また、札幌地裁の平賀健太所長(当時)が「農林大臣の裁量を尊重すべき」と、訴訟に介入する内容の書簡(いわゆる「平賀書簡」)を送ったため、「司法の独立」への侵害として問題化したことも、大学で勉強した。

 

判決言い渡しから今年9月7日で50年を迎えるということで、同日付け朝日新聞朝刊で、当時、裁判長であった福島重雄さんの記事が掲載されていた。

同記事によると、福島さんは、現在、93歳。郷里の富山県で弁護士をされているとのこと。

自衛隊は、憲法9条2項が禁じた「戦力」なのか。

採用した証人は、実に24人。

福島さんは、憲法76条が保障する司法の独立に従い、自衛隊を「戦力」と断じ、保安林指定解除は公益性がなく違法と結論づけた。

 

これに対し、控訴審の札幌高裁判決は、訴えを門前払いとし、最高裁も自衛隊の憲法判断には触れず、上告を棄却した。

 

これ以降、現在に至るまで、自衛隊についての憲法判断は1度も出されていない。

 

長沼地裁判決は、戦後唯一の自衛隊違憲判決として、国の政策に対し、大きな「重し」となっていることは間違いないものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(労働)ストライキは憲法上の権利です

2023年8月31日に、百貨店のそごう・西武の労働組合が池袋本店でストライキを実施したことは大きなニュースとして報道されました。

 

国内の百貨店では実に61年ぶりとのこと。親会社のセブン&アイホールディングスによる外資ファンドへの売却に対し、従業員の雇用の維持を求めてのストライキでした。

 

ストライキ(同盟罷業)とは、労働者が事業主に対し、労働条件の改善などを求めて、集団で仕事をしないことを言います。これは、憲法28条で労働者に認められている権利です。

憲法上の権利で、労働組合法にも定めがあり、業務の停止によって損害が生じても、労働組合や労働者が責任を負うことはありません。

 

私が子どもの頃は、毎年春闘の時期になると、旧国鉄(今のJR)の労働組合が全国的にストライキを行っていましたし、弁護士になった頃も、京都のタクシーの労働組合がストライキをしているところへ応援に駆けつけたこともありました。

しかし、労使協調路線が進み、次第にストライキは減少し、2001年以降は年間100件を下回るそうです。

 

ところで、このストライキという言葉は、英語の「ストライク」で、これは「打つ」という意味のほか、旗などを「降ろす」様子も表すそうで、18世紀、イギリスの港で船乗りたちが帆を次々と降ろし賃金の不満を訴えたことが語源のようです(9月5日付け京都新聞「凡語」より)。

 

そごう・西武の労働組合のストライキによって、国民の多くの眼が今後の成り行きを注目しています。労働者の雇用が守られる解決を図ってもらいたいものです。

 

 

 

 

 

 

長年、弁護士という仕事についているので、若い頃は、刑事事件の弁護活動も何件も行いました。ただ、信条として、暴力団関連の事件と性犯罪の事件の弁護はしませんでした。

 

弁護士が性犯罪の弁護をする場合、「情状」として決まって使用されるのが「同意があると思った」や「被害者が派手な服装をしていた」などという内容です。

 

今の日本では、何を着ても服装は自由なはずなのに、なんで性犯罪が行われた時だけ、女性被害者の着ている服装が問題となり、それが犯行を犯した被告人の「情状」として主張されるのだろうと、ずっと疑問に思っていました。

 

8月、韓国の人気DJの「DJ SODA」さんが大阪の音楽イベントで受けたセクハラ被害を訴えたというニュースがありました。

それに対し、SNSでは、「露出度の高い服を着ている方が悪い」などという書き込みがあったそうです。なぜ、被害者に加害の責任を押しつけるのでしょうか。

DJ SODAさんは「どんな服を着ていても、正当化できない」と発言しました。

 

「DJ SODA」さんの発言は至極当然であり、被害者の服装によって、加害者の罪が軽減されるようなことはあってはならないと思います。

ちなみに、国連も「性的暴力のサバイバーが襲われた時、何を着ていたかは関係ありません」というメッセージを発信しています。

 

 

 

 

 

 

 

定年後に嘱託職員として再雇用されたものの、基本給などの賃金が大幅に減額されたのは不当だとして、名古屋の自動車学校に勤めていた男性2人が学校側に定年前との差額分の支給などを求めた訴訟で、2023年7月20日、最高裁は、定年時の6割を下回る部分は「不合理な格差」で違法と判断した名古屋高等裁判所判決を破棄し、審理を高裁に差し戻しました。

 

最高裁は、「基本給の差が『不合理な格差』にあたることはあり得る」とする一方、不合理かどうかは、基本給の性質や支給目的を踏まえて判断すべきとしました。

その上で、同学校の基本給は、勤続年数だけでなく、職務内容に応じた「職務給」や職務遂行能力に応じた「職能給」という性質もあり、基本給の性質や支給目的についての審理が不十分だとして、高裁に審理のやり直し(差し戻し)を命じました。

 

これまで再雇用者の賃金については、定年退職時の賃金の「6割」という数字が一人歩きしていた感がありますが、最高裁は、具体的に職場毎の基本給の性質や目的などを含めて決定することを求めました。

 

 

訪問販売などで義務付けられている契約書の交付を、書面(紙)ではなく、電子データで行うことを認める改正特定商取引法が、2023年6月1日から施行されました。

 

特定商取引法とは、旧訪問販売法を改正、改称して、2001年から施行されています。

消費者が悪徳商法(訪問販売や電話勧誘、マルチ商法など)等の被害に遭わないよう、一定の規制によって、消費者の保護を図る法律です。

 

今回の改正は、これまで、訪問販売などの一定の取引を行う場合、契約書については、消費者に対し書面を交付することが事業者に義務付けられていました。これは書面という紙によって行われなければなりませんでした。これが電子データで行うことが認められるようになったのです。

 

しかし、事業者が契約書の電子交付を行うにはルールがあります。

 

消費者の事前の承諾が必要です(法4条2項、5条3項)。

 

電子メールやSNSで送ってもらうのか、専用サイトからダウンロードするのかなど、事業者が提供する方法から消費者が選択します。

 

事業者は、クーリングオフやパソコン等の操作ができることなどの重要事項について説明する必要があります。

 

また、事業者は、消費者がパソコン等で自ら必要な操作ができるかどうかを確認しなければなりません。

 

その上で、消費者から書面による承諾を得る必要があり、承諾を得ると、事業者は消費者に対し、その承諾を得たことを称する書面(原則は紙で)を交付しなければなりません。

 

なお、消費者は1度電子交付を承諾した場合でもあっても、その承諾を撤回することもできます。

 

今回の改正は、電子データを駆使できる消費者には便利かもしれません。

しかし、電子メールなどでは家族など第三者の目につきにくく、クーリングオフの期間が過ぎてしまうリスクも懸念されます。

慎重に判断しましょう。

 

(労災)「胃潰瘍で死亡」労災認定

富山市の電気設備工事会社に勤める男性(当時62歳)が出血性胃潰瘍を発症して死亡したのは長時間労働などが原因だとして、富山労働基準監督署は、2023年5月、労働災害と認定しました(2023年6月4日付け朝日新聞朝刊)。

 

国の労災認定基準では、長時間労働や業務による心理的負担などとの因果関係が医学的に確立したものとされているのは、脳・心臓疾患あるいは精神障害に限られています。

これら以外の病気には認定基準がありません。従って、消化器系の病気で労災が認められるケースは極めてマレです。

 

本件では、富山市の男性Aさんは、電気設備工事会社の技術者でしたが、2020年8月の定年退職後も再雇用されていました。血圧が高く、糖尿病の持病もありました。

放送局の建設現場の責任者となり、残業が増え、深夜帰宅・早朝出勤が増えました。

2021年12月に死亡する直近1ヶ月間の時間外労働時間は、過労死ラインを大きく越える約122時間だったそうです。

国が定年後の再雇用などを推し進める中で起こった労災でした。

 

脳・心臓疾患や精神障害以外でも、業務の過重性が認められれば、労災認定される可能性はあります。これまでも、喘息・てんかん・十二指腸潰瘍などの事案で労災認定がされています。

 

また、国は、高齢者の再雇用のみを推し進めるのではなく、高齢労働者が安全で働くことができるような環境対策が求められています。

DV防止法(正式名称は「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」)の改正が2023年5月12日成立しました(施行は2024年4月1日)。

 

DV防止法は、被害者からの申立てにもとづき、裁判所が相手方配偶者に対し、被害者の身辺へのつきまといや住居等の付近の徘徊などの一定の行為を禁止する命令を出す制度です。

 

今回の改正では、DV被害に「自由、名誉、財産に対する脅迫」が追加され、「精神的DV」が保護命令の対象に加わりました。

また、接近禁止命令等の期間を6ヶ月から1年間に伸長しました。

禁止する連絡手段には、電話やメールだけでなく、緊急時以外の連続した文書の送付やSNSの送信も加えられました。

更に、命令違反の場合の罰則も強化され、現行の「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」から「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」となりました。

 

被害者保護が保護が強化された内容となっています。

 

ただ、神奈川大学井上匡子教授が指摘されるように(2023年5月13日付け京都新聞夕刊)、日本のDV防止法は、被害者が逃げることが前提とされており、海外のような「DV罪」の新設や加害者の更生プログラムの導入も検討されるべきと思われます。また、自治体毎で被害者支援の内容が異なるため、全国どこでも充実したサポートを受けられる体制を国が作ることが求められます。

 

 

2023年5月9日付け朝日新聞夕刊に面白い記事が掲載されていた。

黒部峡谷にある宇奈月温泉で「権利ノ濫用除お守り」ができた。

権利を振りかざしてあなたを害する人物や出来事を除(よ)け、良い縁を結ぶお守りだという。

 

私たち法律家は、法学部の大学生時代、「民法総則」という法律を学び始める最初の頃にこの「権利の濫用」という言葉を学ぶ。れっきとした法律用語だ。

その時に出てくる事件が「宇奈月温泉木管事件」。1935(昭和10)年10月5日に大審院の判決が下されている。

当時、宇奈月温泉は、黒部川上流の黒薙温泉から引湯管(木管)で湯を運んでいた。その際、約2坪の土地について利用の許諾を得ていなかったところ、この土地を購入した所有者が、温泉を運営する黒部鉄道(当時)に対し、木管の撤去と立ち入り禁止を求めて訴えたという事件である。

大審院は、双方の利益を比べ、土地所有者の主張を「権利の濫用」として訴えを退けた。

大審院が「権利の濫用」を初めて明示した判決であった。

 

そして、現行民法1条3項に「権利の濫用は、これを許さない」という規定が設けられた。

 

更に、上記新聞記事を読み進めると、宇奈月ダム湖の湖畔には、事件の舞台であることを示す石碑があるとのこと。宇奈月温泉には何度か訪れたことがあるが、これは知らなかった。1度訪れてみたいものだ。

 

そして、訪れた人に喜んでもらえる土産ができないかと議論の末に生まれたのが宇奈月神社の「お守り」だった。今年4月初めから発売されて1週間で欠品になるなど予想以上の反応で、全国から取り寄せ希望もあるとのこと。

 

「権利の濫用」が思わぬ町起こしに役立っている。

 

 

 

 

 

2023年4月20日付け朝刊各紙は、団藤重光元最高裁判事(1913~2012)の遺稿の直筆ノートに、夜間飛行差し止めを巡って争われた「大阪空港公害訴訟」で国側の介入を示唆する記述があったと報道した。

 

これは、団藤氏の資料を保管・分析する龍谷大学が同年4月19日発表したもの。

 

団藤重光氏と言えば、刑事法の大家であり、私が司法試験を受験していた頃、団藤氏の刑法の教科書は受験生であれば誰もが必ず読むバイブルのような本であった。

また大阪空港公害訴訟も司法試験受験生が必ず勉強する判決の1つであった。

 

団藤氏は、東大法学部教授などを経て1974~83年に最高裁判事を務めた。

「大阪空港公害訴訟」は、大阪(伊丹)空港の飛行機の騒音に苦しむ住民らが国を相手取り、1969年に夜間差し止めや損害賠償を求めた裁判である。1審の大阪地裁に続き、1975年に2審大阪高裁でも夜間飛行差し止めが認められたが、最高裁は1981年12月一転して差し止め請求を却下した。同訴訟は、最高裁が初めて審理した本格的公害訴訟だった。

 

同訴訟は、当初、団藤氏が所属していた最高裁第1小法廷に係属し、1978年5月に結審。同小法廷は、2審判決を支持することを決定していた。

ところが、判決を控えた1978年7月18日、国側が大法廷に回付を求める上申書を提出。

団藤氏のノートには、第1小法廷の岸上康夫裁判長(当時)から聞いた話として、翌19日「(最高裁の)村上(朝一)元長官(1973~76年の最高裁長官)から(当時の)長官室に電話があり・・・法務省側の意を受けた村上氏が大法廷回付の要望をされた由」と記されていた。

団藤氏は「この種の介入は怪(け)しからぬことだ」とノートに憤りを記した。

結局、審理は1978年8月大法廷に移り、1981年12月、結論は覆り、差し止め請求は却下された。

 

憲法は「すべての裁判官は良心に従い独立して職権を行い、憲法と法律にのみ拘束される」と定めている(76条3項)。

しかし、元長官とは言え外部から介入し、それが圧力となったことは、まさしく司法の独立を侵害したものにほかならない。

 

結局、その後に続く厚木基地公害訴訟や横田基地公害訴訟など、差し止め請求を認めない流れを最高裁は作ったのであった。

 

団藤ノートは多数残されており、司法の歴史を検証する上で、間違いなく重要な資料になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(最新法令:その他)相続土地国家帰属法

近年、故郷の不動産を相続したが、「住むつもりはない」「管理が大変」などという声が聞かれます。そのため、土地が管理されないまま放置され、そのうち所有者がわからなくなったりして問題となっています。

そのような人を対象に制定されたのが「相続土地国庫帰属法」です。土地を国に引き取ってもらうことが可能となりました。

2023年4月27日から施行されます。

 

法律の対象となる土地は、どんな土地でも良いというわけではありません。

申請できるのは、相続または遺贈によって土地を取得した人です。

 

そして、以下のような場合、申請できません(却下事由)。

例えば、建物がある、抵当に入っているなど担保権や使用収益権が設定されているなどです。

また、申請しても、承認されない場合もあります(不承認事由)。

いくつかの要件が、法務省のホームページで公開されています。

 

申請は、その土地を管轄する法務局で行います。審査手数料が必要で、土地1筆につき、14,000円です。

 

また、法務大臣に承認されて引き取りが認められも、通知を受けた日から30日以内に負担金を納付しないといけません。負担金は、土地の種目に応じて、10年分の標準的な管理費用を考慮されて算出されます。

 

詳細については、法務省のホームページをご覧ください。

 

 

 

夫婦関係がうまくいかず別居した場合、配偶者が生活費(婚姻費用)を支払ってくれず、また援助してくれるような親族もいないような場合には、生活保護に頼らざるを得ません。

 

とりわけ女性の場合、同居中、専業主婦であったり、パート収入しかないような場合には、すぐに正社員の職場を見つけることは困難です。

 

そのような場合、「生活保護を受けていても、離婚の際に子どもの親権者になれますか?」という相談を受けることがあります。

 

大丈夫です。

 

親権は、子どもを一人前の社会人にするために監護・養育する親の責務というべきものですから、親権者をどちらにするかということは、何より子どもの利益、子どもの福祉を中心に決められるべきものです。

権の決定にあたっては、父母の心身状況、監護・養育の条件、子どもの年齢や意思、現在の監護の状況などを総合的に考慮して決められます。

父母の経済的事情も判断材料の1つではありますが、重視されるわけではありません。なぜなら、本来は、養育費をどのように負担し合うかの問題だからです。

 

きちんと生活保護を受けて、子どもを育てていくことの方が重要です。

 

 

(最新法令:労働)デジタル給与解禁

雇用主が労働者に支払う給与(賃金)は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならないと法律は定めています(労働基準法24条1項)。

これまで、その例外としては、労働者が個別に同意すれば、労働者が指定する本人名義の預貯金口座などへの振込の方法で支払うことが認められていました(労働基準法施行規則7条の2)。

 

これに加えて、昨年11月に省令が改正され、2023年4月からは、給与をスマートフォンの決済アプリなとで受け取れるデジタル払いも可能になります。

 

電子マネー等の取扱事業者の申請が4月1日以降始まり、厚生労働省が審査で認めた企業が対象となります。

審査には数ヶ月かかると言われています。

 

雇用主が、職場に導入する場合には、労働者の過半数代表者等と一定の事項について労使協定を締結する必要があります。

その上で、個別に労働者の同意を得る必要があります。強制はできません。

 

ただ、一番の問題は、電子マネー事業者が経営破綻した際の利用者の保護です。

銀行口座なら、銀行が破綻しても、預金保護制度によって元本1000万円が保護されます。

厚生労働省では、事業者に対しては破産等による債務の履行が困難になった際には速やかに保証するしくみを求めていますが、実際に破綻した場合にそれが機能するかは不透明です。

 

また、事業者への不正アクセスによる個人情報流出の問題もあります。

現行民法では、隣地の竹木の枝が境界を越えて伸びてきた場合、自分で切ってしまうことができず、所有者に切除させる必要がありました(民法233条1項)。

しかし、切除を求めても応じてくれない場合や所有者不明の場合などについての規定はありませんでした。訴訟を起こす方法もありますが、時間と労力がかかりすぎます。

 

そこで、この点につき、2023年4月1日施行の改正民法で、所有者に枝の切除を求めたにもかかわらず、相当期間内に切除しない時や所有者不明の時で、急迫の事情があるときには、隣地の枝を自分で切ることが認められました(民法233条3項)。

「離婚したいけれど、先に離婚を口に出した方が不利ですか?」という相談を時々受けることがあります。

 

そんなことはありません。

 

離婚できるか否かは、そもそも夫婦の間に離婚原因(民法770条)があるかどうかに関わりますし、慰謝料が取れるかどうかは離婚に至る主たる責任が相手にあるかどうかで決まりますので、どちらが先に「離婚」を切り出したかで有利不利ということはありません。

 

これに関係して、「先に家を出た方が不利ですか?」という相談を受けることもあります。

 

確かに夫婦には同居義務があります(民法752条)から、「ここがイヤ」「あそこがイヤ」という単純な理由で別居というのは、不利になることもあるかもしれません。

でも、いくら努力しても、夫婦関係が改善しない、あるいは気持ちが通じ合えないような場合には、同居を続けること自体で、自分が精神的に追い込まれていく結果にもなりかねません。

そんな時は、思い切って別居をしても不利になることはありません。

 

 

 

 

隣り合う土地を所有する者同士が、自分が所有する土地を利用しやすいように調整し合う関係のことを「相隣関係」と言います。

 

民法は「相隣関係」について定めていますが、2021年4月21日に成立した民法改正で、これまで規定がなかったライフラインに関する規定が新設されました(施行は2023年4月1日です)。

 

ライフライン設備というのは、電気・ガス・水道など継続的給付を受けるための設備のことです。生活に不可欠な設備ですが、これらの設備を使用するため、他人の土地や設備などを利用しなければならない場合もあります。

 

そこで、民法は、必要な範囲で他の土地にライフラインを設置する権利、及び、他人が所有するライフラインの設備等を使用する権利を新たに定めました(213条の2、213条の3)。

 

ライフライン設備の設置・使用の場所や方法は、他の土地または他人が所有する設備のために損害が最も少ないものを選ばなければなりません(213条の2の2項)。

そして、あらかじめ、その目的、場所や方法を他の土地所有者や他の土地の使用者に通知しなければなりません(213条の2の3項)。

必ず事前に通知しなければならず、事後的通知は認められません。他の土地の所有者が不明な場合には、公示による意思表示(民法98条)によることとなります。

また、通知から設備の設置・使用までは、相手方が準備をするための必要な合理的期間をおく必要もあります。

 

更に、設備を設置あるいは使用する場合には、償金(応分の負担)を支払わなければなりません(213条の2の5~7項)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

民法は、隣り合う土地を所有する者同士が、土地を利用しやすいように調整するための規定を定めています。

これを「相隣関係規定」と言います。

2021年4月21日成立の改正民法において、この相隣関係の規定の改正もされました。施行は2023年4月1日からです。

 

現行民法によると、「土地の所有者は、境界又はその付近において障壁又は建物を築造し又は修善するために必要な範囲内で、隣地の使用を請求できる」とされていました(209条1項)。

例えば、境界付近にある建物の外壁工事をするため、一時的に隣地に入らざるを得ないような場合です。

 

今回、民法209条が改正され、隣地を使用する範囲が拡大されました。

具体的には

・境界又はその付近における建物などの工作物を築造したり、収去したり、修善する場合

・土地の境界標を調査したり、境界に関する測量をする場合

・自分の土地に伸びてきた、隣地の枝を切る場合(民法233条3項)

 

土地の所有者は、要件を充している場合には、隣地の所有者の承諾がなくとも隣地を使用することができ、事前に連絡を受けた隣地の所有者は使用を拒むことができません。

 

また、不動産登記簿や住民票などの公的記録で確認しても、隣地の所有者の名前やその所在がわからないため事前の通知が困難な場合には、隣地の所有者が判明したときに通知することで足りることになりました(209条3項但し書)。

 

もちろん、使用の日時や場所・方法は、隣地の所有者のために損害が最も少ないものを選ばなければなりませんし、もし隣地所有者が損害を受けた場合にはその賠償を請求することができます(209条2・4項)。

 

遺産分割をしないまま、放置されている遺産はありませんか?

 

現行民法では、遺産分割については、被相続人の死亡後何年経過しても、分割方法や分割割合について自由に協議することができます。その意味で遺産分割に「時効」はありませんでした。

しかし、遺産が何年も放置されたまま相続人が死亡したりして相続が繰り返されると、遺産の管理や処分が困難となり、とりわけ不動産については「所有者不明土地」が生じる原因にもなっていました。

 

そこで2021年4月に成立した改正民法によって、2023年4月1日からは、相続開始時から10年経過後にする遺産分割は、原則として法定相続分(民法が定めた遺産の取り分)によることになりました(民法904条の3)。

 

注意しなければならないのは、施行日の2023年4月1日より前に被相続人が死亡した場合の遺産分割についても改正民法が適用されるということです。

但し、これには経過措置があります。相続開始から10年経過時、または改正民法施行時から5年経過時のいずれか遅い時までに遺産分割の請求を行った場合には、法定相続分以外の分割も可能となります。

従って、分割されないまま放置している遺産がある場合には、速やかに遺産分割の請求を行うことをお勧めします。

 

交通事故に遇って後遺障害が残った場合あるいは死亡したような場合、その程度に応じて「逸失利益(いっしつりえき)」の賠償を請求することができる場合があります。

 

「逸失利益」とは、被害者が、もし交通事故に遇わなければ、将来得られる可能性がある利益のことを言います。

「逸失利益」の計算は、現実に働いている人が事故に遇った場合には、被害者本人の事故前の収入が計算の基礎となります。

また子どもや専業主婦など働いていない人の場合には、賃金センサスという平均賃金が基礎となります。

今回は、聴覚障害のある児童についての逸失利益をどう算定するかが争われました。

 

2023年2月27日、大阪地裁は、交通事故で死亡した聴覚障害のある児童(女性、当時11歳)の逸失利益の算定について争われた裁判で、全労働者の平均賃金の85%と判断しました(原告は控訴)。

 

原告である両親は、全労働者の平均賃金から算定するように求め、被告側は聴覚障害者全体の平均賃金(健常者の約6割)をもとにすべきと主張しました。

 

判決は、「聴覚障害が労働能力を制限しうることは否定できない」と判示して、週30時間以上働く聴覚障害者の平均賃金が全労働者の約7割である状況を考慮し、更に、障害者の進学や就労が進んでいることなどで将来平均賃金の上昇が予測されるとして、全労働者の85%を算定基礎としました。

 

子どもらには無限の可能性があり、一律に決めるのは不可能と言ってよいでしょう。弁護士の中にも、聴覚障害や視覚障害などの障害を有しながら活躍している人もいます。

 

このような判決を目にすると、過去、男女の逸失利益の算定にも差別があったことを思い出します。

私が弁護士になった頃は、同じ事故で同じ年齢の男児と女児が死亡しても、女児は女性労働者の平均賃金で逸失利益が算定されていたため、賠償金額にすごく差が生じました。

 

それを変えたのは、2001年8月20日の東京高裁判決でした。

判決は、将来の就労可能性の幅に男女差はもはや存在しないに等しいと指摘し、年少者の備える属性のうち性別という属性のみ取り上げることが合理的な理由のない差別であると判示しました。

そして現在、女児についても全労働者の平均賃金をもとに算定されています。

 

厚生労働省の調査によると、2022年6月時点で民間企業で働く障害者は61万3958人で過去最高だったそうです。

障害者の雇用が広がっている状況を踏まえた判決が求められていると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

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