(女性弁護士の法律コラム NO.129)
「長引く不景気、政府が検討している消費税アップや社会保障制度の見直しなどを背景に、シニアの間で家計簿を付け始める人が増えているという」(2013年1月25日付け京都新聞朝刊)。
私は、ずっと家計簿をつけている。
いつからだろう・・・・中学の家庭科で「金銭出納帳」いわゆる「小遣い帳」の書き方を勉強して以来だったと思う。
子どもの頃は「小遣い帳」形式で、大人になっていつからか「家計簿」形式に変わり、現在までずっとつけてきた。
もともとあまり無駄遣いする性格ではないので、「生活を見直す」というような目的があるわけではなく、子どもの頃からの惰性で、つけないとなんとなく気持ちが悪い。
でも、物忘れで「あれ、払ったっけ?」と思った時、家計簿を見ればわかるし、習い事をしていた時などには、友人から「あの時の衣装代いくらだったか、調べてくれない?」と頼まれたこともあった。もちろんスーパーの商品の底値もわかる。
事務所のホームページ「法律コラム:離婚」の「離婚を有利に進める方法」の中でも書いたが、夫の生活費の不払いや夫から「妻の浪費」「家計能力がない」などと難癖(?)をつけられた時には、家計簿は有力な証拠となるし、また、家計簿のメモ欄に書いた短い文章が時には離婚の重要な証拠となることもある。
しかし、そういう人に限って家計簿なんかつけておらず、悔しい思いをすることがよくある。
また、破産を申し立てる場合や、裁判所から破産管財人に選任された場合などは、弁護士が破産者の毎月の家計をチェックしなければならない。
そういう時には、自分自身が家計簿をつけているから、各費目のおおよその適正価格はそれなりに判断できるから、家計簿をつけることは仕事にも少しは役立っている。
ところで、母が亡くなった後、遺品を整理していたら、家計簿が何冊も残っていた。それも市販の家計簿ではなく、普通の大学ノートに自分で使いやすいように線を引いて枠を作り、予算も立てて、毎日書いていた。その几帳面さに驚いた。
母の性格が少しは遺伝してるんかなあ。
女性弁護士の法律コラム
(女性弁護士の法律コラム NO.128)
新年早々、悲しい知らせが届いた。
女性弁護士の草分け的存在のお一人、東京の坂本福子弁護士が1月12日亡くなられた。80歳。
坂本弁護士は、数々の男女差別の裁判に取り組まれ、女性の権利を切り開いて来られた。
結婚退職制、男女差別定年制、男女賃金差別などなど・・・・書籍などで判例紹介されている男女差別事件のほとんどを手がけて来られたと言っても過言ではない。
「女」というだけで「男」と差をもうけることが平然とまかりとおってきた時代に、当事者女性らと共に闘い、その信念は、長い弁護士人生の中で少しもゆらぐことはなかった。
体重が30キロもない痩せたその身体のどこにそんなパワーがあるのだろうと思ってしまう。
坂本弁護士が1982年に出版された「女性の権利」(法律文化社)は、私にとってはバイブルのような本で、女性の権利問題などの講演を依頼された時には、必ず繰り返し読み返した。
闘わないと道は開けない、そして闘えば必ず道は開ける・・・坂本弁護士はそう教えてくれた。
そんな坂本弁護士と、日本弁護士連合会の両性の平等委員会や自由法曹団の会議でご一緒し、議論したり、親しく話をさせていただいたことは、懐かしい思い出になっている。
男女雇用機会均等法ができて約30年。
社会は、あらゆる分野で男女平等が実現できているだろうか?
現在、女性を取り巻く状況は、より複雑となり、男女差別も見えにくいものとなっている。
坂本弁護士は、きっと、真の男女平等が実現するまで「闘わなきゃあダメよ」と仰っているはず。
ご冥福をお祈りします。
(女性弁護士の法律コラム NO.127)
Sさんの相談を受けたのは、11月初めだった。
Sさんは、自分は末期ガンなので、遺言を作りたいと語った。その時、Sさんの口から「末期ガン」という言葉が出なければ、およそガン患者には見えなかった。
私は、以前にも、ガン患者の方から遺言の作成の相談を受けたことがあったが、「遺言の内容を考えてきます」と帰られた後、連絡がないなあと思っていたところ、後日、遺言を作成する前に亡くなられてしまったことを知った。悔いが残った。
Sさんに、そのエピソードを話すと、「私は、まだ大丈夫です」と笑顔で帰られた。
ところが、12月初め、Sさんから、体調が悪いので、自宅まで来て欲しいと電話が入り、飛んで行った。
人間、元気な人でも、明日何が起きるかわからない世の中なので、とりあえずすぐに自筆で遺言を作成してもらうこととし、それと共に、公証人役場で公正証書遺言を作成することに決めた。
Sさんは、独身なので、自分の遺産は多くの友人知人に分けたいという希望を持っていた。しかし、弱った身体で、遺言の内容すべてを手書きで書くのは大変だったと思う。
公正証書遺言の作成日がなんとか12月28日に決まり、その日まで、突然倒れて意識を失ってしまうようなことがないかしらと心配したが、大丈夫だった。
そして、今日、Sさんは、雨の中、公証人役場に赴き、自筆で書いた遺言と同じ内容の公正証書遺言を作成することができた。
Sさんは、とてもホッとしておられた。
公証人さんが「公正証書遺言は、あなたが120歳になるまでここで保管しておきますからね」と言われた時、Sさんは「120歳を超えて生きたらどうしましょう?」と冗談が出るほどだった。
そして、もちろん私も、Sさんの気持ちに応えられたことが嬉しかった。
1日でも長く元気でいてほしい。
(女性弁護士の法律コラム NO.126)
日本維新の会の公約は、どれも私の考えとは相容れないものばかりだが、「最低賃金制の廃止」まで公約に掲げるとは驚いた(2012年12月1日付け朝日新聞)。
最低賃金制というのは、最低賃金法という法律によって定められたもので、労働者が低い賃金で働かされるのを防ぐため、一定額以下の賃金で労働者を働かせてはならないことを強制したものである。
同法1条は、「この法律は、賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もって、労働者の生活の安定、労働者の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」と定める。
最低賃金額は、毎年、都道府県別に定められるが、決して高いものではない。
現在、最も高いのが東京都の時給850円で、京都は759円、一番低いのは島根県と高知県の652円である。
最低賃金制がなくなれば、賃下げに歯止めをかけるものがなくなり、労働者が際限なく低い賃金で働かされ、苦しい生活を強いられることは明らか。まさに奴隷状態である。
維新の会の本質がどこにあるか、しっかり見抜かなければいけない。
(女性弁護士の法律コラム NO.125)
11月29日、京都をはじめとする関西圏の住民を中心に1109人の原告が、関西電力と国を相手取り、大飯原発(福井県)1~4号機についての運転差し止めと原告1人あたり月1万円の慰謝料を求める訴訟を、京都地方裁判所に提訴しました(本日付け朝刊各紙)。
国や関電は、大飯原発の真下に活断層がある可能性が指摘されても、今もなお、原発の稼働を止めようとしません。
もし、大地震が起これば、福島以上の取り返しができない甚大が被害が生じることは明らかです。
住民の怒りはおさまりません。
1000人を超える原告による提訴は、京都地裁始まって以来ではないでしょうか。
(なお弁護団は1万人の原告を募集しています。)
とても重要な大裁判ですね。
(女性弁護士の法律コラム NO.124)
遠隔操作されたパソコンからネット上に犯罪予告された事件で、4人もの無実の人が誤認逮捕された。
そして逮捕された4人のうち、2人は逮捕直後は否定していたにもかかわらず、警察や検察の取り調べに容疑を認めていた。
「就職試験に落ちたので、むしゃくしゃしていた。不採用の知らせを受けた当日にやった」
「楽しそうな小学生を見て、自分にはない生き生きさがあり、困らせてやろうと思った」
警察や検察から、ありもしない「動機」を、いかにも「ありそうに」言わされているのである。
彼らは「犯行を認めれば罪が軽くなる」と言われたと証言している。
世間の人は、よく「やってないのに自白するはずがない」と言う。
でも、「やってないのに自白をしてしまう」のが警察や検察での取り調べの現実である。
取り調べの全面可視化は絶対に必要である。
(女性弁護士の法律コラム NO.123)
30代前半の女性から離婚の法律相談を受けた。
彼女の母親は、私と同じ位の年齢のようだが、夫婦関係の悩みを相談できるような関係ではないと語った。
相談できる友人もいないとのこと。
離婚する道を選んだ方が良いか、これから何をしていったら良いかなど、一人で悩んでいるという。
彼女から「先生、次からは相談時間を延長してもらって、人生相談してもいいですか?」と尋ねられた。
う~ん・・・・
私自身は、カウンセラーの資格があるわけでもないので、彼女の人生の悩みに対し適切な対応をする自信はない。だから、法律に関わること以外の意見を求められり相談を受けたりした場合には、結局、「弁護士」としてでなく、一人の「人間」として、自分の経験や価値観・人生観から考えを述べるだけになる。
「それでもいいなら、時間は取るけど」と答えた。
離婚するかどうか、離婚後どのように生きていくのか等は、自分の人生なのだから、自身で決断しなければならないことである。
私たち弁護士は、少しだけ法的な力をお貸しするだけで、その人の人生まで責任を負うことはできない。
だから、友人に対してであれば「こうしたら、いいんじゃない?」「こう、すべきと思う」と言えることでも、相談者や依頼者の人生相談に対しては安易にそういう言い方はできないのである。
(女性弁護士の法律コラム NO122)
9月28ー29日の両日、京都で過労死弁護団全国連絡会の総会が開催されたので、当事務所からは、日野田弁護士と二人で参加しました。
私は全国総会には初めての参加でしたが、28日は、25都道府県から弁護士120名と遺族ら約10人が出席したとのことで、新聞報道によると、これは過去最多の出席者だったそうです。
過労死防止基本法制定を求める運動の状況報告から始まって、各地から、精神障害による過労自殺や脳・心臓疾患による過労死の労災認定例・裁判例などの報告があり、活発な討議がされました。
残業時間を把握するのにどのような工夫をしているのか、裁判官を説得するにはどのようなことを強調したら良いのか、厚生労働省の労災認定基準をどのように理解し利用すべきか、など生の報告がとても勉強になりました。
私は、弁護士になった当初、過労死がまだ「急性死」と呼ばれてきた時代から、過労死問題に関わってきました。
被災者が死亡されてから10年近くたって裁判でようやく労災あるいは公務災害認定を勝ち取った事件もありましたが、いまだに過労死のない社会は実現していません。
現在、中学校教諭の脳出血(生存)が公務災害であるとの認定を求める裁判(最高裁係属中)と企業で働いていた労働者の過労による精神障害について企業に対し損害賠償責任を求める裁判(2件。京都地裁係属中)に関わっています。
全国の弁護士がそれぞれ情報や経験、ノウハウを交流し、1つでも多くの労災認定や裁判での勝利を勝ち取っていくことが過労死を根絶する1歩であることを改めて痛感しました。
(女性弁護士の法律コラム NO.121)
「大阪弁護士会がメンタルヘルス電話相談をスタート」という記事を目にした(2012年8月16日産経新聞)時、てっきり大阪弁護士会の弁護士が市民対象にメンタルヘルスの相談を始めたのかと思った。
弁護士も増え、カウンセラーなどの資格を持っている弁護士もいるからできるのだろうなどとも思った。
でも、違った。
対象は、市民ではなく弁護士。そして家族、事務所の職員。
相談を受けるのは臨床心理士。初回15分まで無料で電話相談に応じ、その後の面談予約も可能というもの。
社会を反映してか、弁護士もメンタルが原因で長期間休んだり、弁護士業そのものを辞めてしまう人も決して少なくない。
「えっ、あの弁護士が!?」と思うことがあるので、悩みやストレスを抱えていても、日頃は顔には出さない弁護士が多いのだろう。
私自身は、結構、ちょっとしたことでストレスを感じてしまう性格だと思う(友人らは、それを認めてくれないが・・・涙)。
でも、弁護士になって以来、複数の同僚がいる事務所で働いてきたので、仕事上で気にかかることや悩み・不安、愚痴に至るまで、口に出せば、誰かが適切な回答をしてくれた。
プライベートでの悩みなどは、趣味を通じて親しくなった友人らが支えてくれた。
私の経験からすると、ストレスや悩みがあれば、自分一人で抱え込まないで、人に話すことが大切な気がする。
その意味で、大阪弁護士会のメンタルヘルス相談が一助になればいいなあ。
(女性弁護士の法律コラム NO120)
大阪の橋下市長の従軍慰安婦強制連行「証拠なし」発言(8月21日)について。
私は、大学生の時、当時、従軍慰安婦だった女性たちの生々しく、しかも吐き気をもよおすような体験談を本で読んで、大きな衝撃を受けた。
日本が加害者であるにもかかわらず、「(もし証拠があるなら)韓国の皆さんにも出してもらいたい」というのはなんと傲慢な発言だろう。
元「慰安婦」らの証言こそ、確かな「証拠」にほかならない。
戦時中、慰安所が存在していた国や地域は、日本、中国、フィリピン、インドネシアなど広範な地域に及んでいた。
そして、今日までに、被害者「慰安婦」による裁判が何件も提起され、多くの裁判所の判決の中で「日本軍・政府の関与」「強制」の事実が認定されてきている。
(2003年7月22日東京高裁判決)
「業者らは、甘言を弄し、あるいは詐欺脅迫により本人たちの意思に反して集めることが多く、さらに、官憲がこれに加担するなどの事例も見られた」
(1998年4月27日山口地裁下関支部判決)
「従軍慰安婦制度は、慰安婦原告らがそうであったように、植民地、占領地の未成年女子を対象とし、甘言、弾圧等により本人の意思に反して慰安所に連行し・・・性交を強要した」
また、橋下市長は、「当時の時代背景において、慰安婦制度がどういうものだったのかを真正面から議論しなきゃいけない」などと述べるが、上記下関支部判決は「いわゆるナチスの蛮行にも準ずべき重大な人権侵害」「これが20世紀半ばの文明水準に照らしても、極めて反人道的かつ醜悪な行為であったことは明白」とも判示している。
更に、上記山口地裁下関支部判決は、日本が慰安婦原告らの被った損害を回復するための特別の賠償立法をなすべき義務を怠ったことに過失があるとして、損害賠償義務も認めた。
しかも、日本政府も、1993年8月4日付け内閣官房長官談話(「河野談話」)において「甘言、弾圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したこともあったことが明らかにあった。また、慰安所における生活は、強制的な状況の下での痛ましいものであった」と述べている。
橋下市長の発言は、本当に許せない。
(女性弁護士の法律コラム NO119)
8月8日、京都家裁での「試行的面会交流」に立ち会いました。
「試行的面会交流」というのは、別居中の非監護親から監護親に対し、子どもと面会交流したいという調停や審判が申し立てられた場合、その手続きの中で、非監護親と子どもとの面会の様子・状態などを知るために、非監護親と子どもとが「試しに」面会することです。
試行的面会交流の方法は、外で行う方法と家裁の中で行う方法があり、いずれも家裁の調査官が立ち会います。
京都家裁には、プレイルームという6畳くらいの広さの部屋があり、そこには、おもちゃやぬいぐるみ、ゲームなどがたくさん置いてあって、子どもが遊べるようにもなっています。
そのプレイルームは、警察の取調の「面通し」の時の部屋のように、隣の部屋からガラス越しに見ることができます(プレイルームの方からは隣は見えません)。
私は、監護親(母親)の代理人ですので、彼女と一緒に隣の部屋に入り、非監護親(父親)と子どもとが話しながら遊んでいる様子を見ていました。
彼女がどのような感想を持ったか、子どもさんがどう感じたか、まだ聞いていませんが、彼女はおそらく色々な心配や不安も含め複雑な思いだったと思います。
また、別件でも、試行的面会交流が予定されています。
これは、子どもさんが大きいので、非監護親と子どもとが寺で会うことになっています。
(女性弁護士の法律コラム NO.118)
検察庁や裁判所がここまでやるか・・・と思う、ひどい話である。
大阪地方検察庁が、刑事裁判中で勾留中の被告人の居室(大阪拘置所内)から弁護人への手紙などを押収したのは、接見交通権の侵害にあたるとして、この被告人と元弁護人が7月10日、国に慰謝料など計3300万円の支払いを求める国家賠償請求訴訟を提起した(2012年7月11日付け読売新聞)。
身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人と立会人なくして接見(注、面会のこと)し、又は書類もしくは物の授受をすることができる(刑事訴訟法39条1項)。
これは、「接見交通権」と呼ばれ、被告人の防御権や弁護人の弁護権を定めたとても重要な権利で、今回の捜索差押は、被告人の防御権を直接に侵害するものにほかならない。
しかし、捜索差押は、検察官や警察官が自由にできるわけではない。
裁判所がそれを許可する捜索差押令状が必要である。
今回、なんで裁判所が安易にそれを認めたのか、理解できない。
刑事訴訟法の不勉強な裁判官だったのか。
こんなことは絶対あってはならない。
(女性弁護士の法律コラム NO.117)
4月17日付け当ブログの続きです。
昨日(7月5日)、京都弁護士会で「養育費・婚姻費用の簡易算定方式・簡易算定表」の問題点についての勉強会がありました。
この簡易算定表は、数名の裁判官らによって作成され、2003年3月に雑誌に発表されて以降、家裁の調停などで婚姻費用や養育費を決める際、目安として利用され、現在では、実務に定着しています。
離婚などの解説本にもたいていは紹介されています。
しかし、今年3月、日本弁護士連合会は、この算定表には構造的な問題があり、そのため算定される金額が低額で、母子家庭の貧困の一因となっていると指摘する意見書を発表しました。
私たち弁護士の中にも、算定表にどのような問題点があることも知らずに使用している人が多いので、 勉強会が開かれたわけです。
本来、婚姻費用や養育費の金額については、義務者(多くは父親)と同程度の生活ができる金額と言われています。
しかし、実際に算定表で算出された金額は、「義務者と同程度の生活」からはほど遠いというのが実感です。
下記は主な問題点です。
① 公租公課は実額認定できるにもかかわらず、この表は標準化した公租公課の金額をもとに作成されており、しかも、この10年間の所得税制や社会保険料率の改定等も反映されていない。
② 総収入に占める職業費(交通費・書籍費・こづかい・交際費など)については世帯全体分の支出額をもって職業費とし、しかも、就労に必要な部分と私的な部分とを区別していない。
③ 住居費や保険掛金などを特別経費として個別具体的事情を一切考慮せず平均値を使って標準化して控除している。
④ 生活費を算定する指数を、親100として、子どもは0~14歳が55、15~19歳が90としている。
しかし、なぜ、0歳と14歳とが同じ55なのか、14歳と15歳とでなぜ大きな開きがあるのか。生活実態とかけ離れている。
上記の問題点はなかなか裁判所には受け入れられない現実ですが、できる限り生活実態に 合った婚姻費用や養育費の金額をめざしていきたいと思います。
(女性弁護士の法律コラム NO.116)
未成年の姉妹への準強姦罪などに問われ、一審では懲役13年の判決を受けた男性の控訴審判決で、名古屋高裁金沢支部は、7月3日、当時10歳だった妹の告訴能力を認めなかった一審富山地裁判決を破棄し、審理を富山地裁に差し戻しました。
この判決に関連して、少し「告訴」について解説しましょう。
「告訴」というのは、警察や検察に対し犯罪の事実を申告して、犯人の処罰を求める意思表示です。
告訴は、一般には、捜査の端緒となるものですが、「親告罪」と言って、告訴がなければ起訴できない罪があります。
強制わいせつ罪や強姦罪などがこの親告罪にあたります。
告訴するには、それができるだけの能力が必要であり、刑事訴訟法の教科書には、下記の2つの要件が必要と書かれてあるものもあります。
① 捜査機関に対し、自己の犯罪被害事実を理解し、申告して犯人の処罰を求める意思を形成する能力
② 告訴の結果生まれる利益や不利益を理解する能力
これまでは、およそ中学生以上であれば、告訴能力があるとされてきました。
今回の判決は、告訴能力の要件としては上記①で足りるとし、「当時10歳11ヶ月の小学5年生で普通の学業成績を上げる知的能力を持った妹が、被害状況を具体的に申告した上で、犯人としての男を特定して処罰を求める意思を申告したのだから、告訴能力を備えていたと言うべき」と判断しました。
ちなみに、仮に被害者が成人であっても、知的障害のある場合については、告訴能力について争われることがあります。
2010年12月21日、福岡高裁宮崎支部は、知的障害のある女性(30歳)に対する強制わいせつ事件において、女性の告訴を無効とした一審判決を破棄し、審理を宮崎地裁に差し戻しています。
(女性弁護士の法律コラム NO.115)
広島県福山市にある鞆(とも)の浦。
風光明媚で歴史のある港町である。
万葉集にも詠まれ、宮崎駿監督のアニメ映画「崖の上のポニョ」の舞台ともなった鞆の浦では、約30年前から鞆の浦の埋め立て・架橋事業が計画策定されてきたが、6月25日、広島県知事は、計画中止を正式に決めた(2012年6月25日付け読売新聞)。
景観を重視した事業計画の変更は異例。
その背景には、景観を守ろうとする地元住民らの長いたたかいの歴史があり、2009年10月1日には、広島地裁は原告住民に対し画期的な勝訴判決を下している。
地裁判決は、県と市の埋め立て・架橋計画をめぐり、地元住民が県を相手取り、知事が埋め立てを許可しないよう求めたことに対し、住民側の請求を全面的に認め、知事に埋め立て免許の交付をしないよう命じた。
歴史的景観を保護するために大型公共工事の許認可を差し止めることができるかどうかが争われた初めての訴訟だった。
判決は、まず、鞆の浦の景観は住民らの利益にとどまらず、瀬戸内海の美観を構成し、文化的・歴史的価値を持つ「国民の財産ともいうべき公益」と指摘した上、行政側の必要性や公共性は認めつつも、景観保全を犠牲にしてまでの必要性があるかどうかについては大きな疑問が残るとし差し止めを認めた。
これまで司法の場で「環境権」や「景観権」などが認められることは非常に困難と考えられてきたが、この判決を読んで、「環境権」や「景観権」を真正面からとらえた画期的なもので、これも世の中の変化・前進であると感じた。
私は、地裁判決後、どうしても鞆の浦に行ってみたくなり、一審判決直後の2009年11月に訪れた。
あいにくの雨だったが、江戸時代からの名残が残る港や街並みは趣があり、また、福禅寺の座敷から望む湾や島々は、まるで絵のように美しかった。
広島県は控訴したが、一審判決から3年が経過しての今回の知事の決定は、住民の勝利であり、日本のすばらしい景観が1つ守られて本当に良かったと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.114)
九州電力玄海原発の操業停止を求める裁判の第1回口頭弁論が6月15日佐賀地裁で開かれた。
原告数は計4252人。
15日の第1回弁論には、原告・弁護団合わせて約450人が集まった。
弁護団は、体育館のような広い施設での開催を求めていたが、地裁は警備面などから「秩序だった審理が難しくなる」と拒否。
地裁は、原告側用に45席を確保し、残りの一般傍聴席23席分を376人で抽選することになった。(2012年6月23日付け朝日新聞デジタル)
裁判を受ける権利は、憲法32条で保障された国民の権利であり、通常の民事裁判であれば、たとえ代理人弁護士に委任していても、当事者自身も、弁護士と共に原告席や被告席に座ることができる。
裁判所法では、最高裁判所が必要と認めれば、法廷外で裁判を開くことができるという定めがある(69条2項)が、最高裁によると、原告が多いという理由で法廷外で裁判を開いた例はない。
元福岡地裁所長の蓑田弁護士は、別施設で開催すると、不規則発言が相次ぐ可能性や警備面の不安が高まる、として、佐賀地裁の判断に理解を示すコメントを出している。
でも、裁判所が破産管財事件の債権者集会を開く時、債権者の数が多数見込まれるような事件の場合には、裁判所外の施設で開かれることもある。
そして、荒れる債権者集会も珍しくない。
だから、やろうと思えばできるはず。
2003年に佐賀地裁であった諫早湾干拓事業の差し止め訴訟(当時の原告約600人)では、法廷の音声をワイヤレスマイクで拾って、隣の法廷にスピーカーで流したとのこと。
今回、佐賀地裁は、この方法についても「裁判長の監督が行き届かない」と拒否したという。
国民に開かれた司法をめざすのであれば、当事者が出席を希望した場合には、可能な限り、審理の場に同席できる工夫や努力はなされるべきだと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.113)
人気のロールケーキ「堂島ロール」で有名な大阪の「モンシュシュ」が、労基署から、未払い賃金の支払いを求める是正勧告を受けた(2012年6月1日付け毎日新聞)。
報道によると、会社は、あらかじめ社員に「みなし残業時間」を設定し、残業代込みの給与を支払っていた。しかし、実際の残業時間がみなし残業時間を大きく超過しているとして、残業時間の短縮と過去2年分の未払い賃金の支払いを求められたという。
「みなし残業時間」という言葉は、労基法にはない(労基法が定める「みなし労働時間」とは全く別物)。
この「みなし残業時間」というのは、例えば、「月20時間の残業代分○万円」とあらかじめ定めて支給するもののよう。
でも、その残業時間以上働いた場合には、残業代を払うのは当然である。
いくら商品がおいしくても、労働者イジメはいけませんね。
(女性弁護士の法律コラム NO.112)
人気お笑い芸人の母親が生活保護を受けていることを女性週刊誌が報じたことをきっかけに、生活保護制度全体に対して大バッシングが起こっている。
でも、生活保護も申請できぬまま「孤立死」や「餓死」するなどの悲惨な社会実態があるにもかかわらず、制度全般や利用者全体に問題があるかのごとき報道は許せない。
そのタレントに多くの収入があるにもかかわらず、母親が生活保護を受けていたことがあたかも不正受給であるかのような論評も見られるが、そもそも生活保護法上、扶養は保護の要件ではない。
実際に親族から「扶養」が行われた場合には収入認定され、その金額の分だけ保護費が減額されることはあるが、扶養義務者の扶養は、生活保護を受けるための前提条件ではないのである。
また、民法で定められている扶養義務についても、強い扶養義務を負うのは、夫婦の間と未成熟の子に対する親だけで、兄弟姉妹や今回のケースのような成人した子の老親に対する義務は、「経済的に余裕があれば援助する義務」にすぎない。
更に、扶養の程度や方法は、義務者の資力だけでなく、権利者の落ち度、両者の関係の強弱や濃淡などを総合考慮して家裁が決めるとされている。
今回のバッシングの中心となっている1人が自民党の片山さつき議員。
誰かがTwitterで「僕が片山さつきの親族だったら、すぐに仕事を辞めて扶養してもらう」とつぶやいて皮肉っていた。
本質をついた、つぶやきで、拍手!
報道機関そして国は、制度利用者の声や実態にもっと目を向けるべきである。
(女性弁護士の法律コラム NO.111)
こういう見出しで、2012年5月16日付け朝日新聞が大きく取り上げた、風俗営業法違反店の摘発問題。
風俗営業法違反でクラブが摘発される事例が相次いでいる。
昨年、京都でもクラブ3店が摘発されたとのこと。
「クラブ」というと、皆さんは、どんな場所を想像するだろう。
バーや、かつて京都にあった高級ナイトクラブ「ベラミ」のような場所?
違うんです。
現在は、DJの流す音楽に合わせ、若者を中心とした客たちがヒップホップなどのダンスを楽しむ店も多い。
ディスコやライブハウスに近い。
風営法では、客にダンスをさせ、飲食物を提供する店は公安委員会の営業許可が必要で、しかも許可を取っても営業時間は午前0~1時までに制限されている。
もともと風営法は、1948年、売春婦がダンサーとして客をとっていた時代に、風紀を正す目的で制定された。
当時のダンスは社交ダンス。でも、風営法制定のきっかけとなった社交ダンスは、今や、規制対象から外されているという、なんともおかしな法律である。
今年度から中学1-2年の体育授業でダンスは必修科目となり、ダンスは今やスポーツである。
私も、スポーツクラブで、ファンクやストリートダンスのレッスンを受けて、その面白さにはまった。
音楽家坂本龍一さんは、「クラブはサブカルチャーのハブ(中継点)。音楽、ダンス、アート、文学、ITなど多くの分野がつながっている。クラブ文化を取り締まるのは時代錯誤。日本文化破壊といっても過言ではない」と批判する。
記事によると、京都から法改正を求める10万人署名活動が開始されるとのこと。
私もダンス大好き人間の1人として法改正を求めていきたい。
(女性弁護士の法律コラム NO.110)
夫婦別姓にするため、現在の夫との間で離婚届を提出し、事実婚としたいという女性の相談を受けた。
その際、生命保険の受取人はどうなるんだろう、「事実婚の配偶者」でも受取人として認められるのだろうかという質問があったので、少し調べてみた。
生命保険の受取人は、殺人目的で利用されぬよう、配偶者や2親等以内の血族などに限られているよう。
「配偶者」には事実婚も含まれるようだが、「妻(未届)」という住民票を要求されたり、実際に調査員が訪問して、夫婦の実態があるかどうかチェックする会社もあることがわかった。
契約している保険会社毎によって調査方法が異なると思われるので、直接、保険会社に尋ねた方が良い。
ところで、保険法という法律が2010(平成22)年4月から施行されており、その44条1項では「保険金受取人の変更は、遺言によってもすることができる」と定められている。
だから、保険会社の調査がめんどうと思われる場合には、遺言できちんと書いておくのも1つの方法かなと思った。