(女性弁護士の法律コラム NO.189)
日本テレビにアナウンサーとして2015年4月からの採用が内定していた女性が、ホステスのアルバイトをしていたことがわかり、「求められる清廉性にふさわしくない」という理由で内定を取り消された。
その後、この女性は、今年10月、内定取り消しは無効として提訴し、現在、係争中である。
まず、この「内定」を法的に解説すると、企業による募集に対する応募は労働契約締結の申込みであり、内定通知はその申込みに対する承諾であるから、内定通知によって「入社予定日を就労の始期とする解約権留保付労働契約」が成立することになる(昭和54年7月20日付け最高裁判決)。
従って、企業による採用内定取り消しは、既に成立している労働契約の一方的解約(解雇)であり、採用内定取り消しが適法と認められるのは、「採用内定当時知ることができず、また知ることが期待できない」事実が後に判明し、しかも、それにより採用内定を取り消すことが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認できる」場合に限られるのである(前記最高裁判決)。
本件についてはどうだろうか。
銀座のクラブのホステスとして働いていたことを申告しなかったことを理由とする内定取り消しが「客観的に合理的と認められ社会通念上相当」かどうかが問題となる。
ネット上では、賛否両論の議論がなされているが、2014年12月12日付け西日本新聞に掲載された貴戸理恵関西学院大学准教授のコラム内容がとても得心できた。
私には、銀座どころか、地元の京都祇園でも、その夜の世界などほとんど知るところではない。
それでも、少なくない女子大学生にとってホステスが身近なアルバイトになっている現実があることはなんとなく耳にしていた。
それは、東大生、京大生しかりである。
貴戸准教授は、「学費が高額で奨学金などの受給が少なくない日本では」・・・「女性が学業を全うしたければ、時給に恵まれ、時間的に『本業』とかぶらないアルバイトを探すのは当然」「ホステスとは単に『学校のないときにできて、時給が高い仕事』の1つにすぎない」と言う。
日テレがこの女性に送った通知には「銀座のホステス歴は、アナウンサーとしての清廉性にふさわしくない」と書かれてあったそうだ。
日テレの言う「清廉性」とはいったい何なのか。
貴戸准教授は、このようなことが認められれば、アナウンサーのほかに、教師や金融関係など「清廉性」の要求が高い職業から「苦学生」を締め出すことにもつながると指摘する。
そもそも女性だけがホステス経験を理由に「清廉でない」と内定を取り消されるが、クラブよりももっと性的に「過激」であろうキャバクラや風俗店に行った経験を理由に、男性が「清廉でない」と内定を取り消されることはない。
接待する側と接待される側とが「清廉性」においてそれほど違うものなのか。
日テレのジェンダー感覚を疑うばかりである。
元ホステスのアナウンサー誕生を期待している。
女性弁護士の法律コラム
(女性弁護士の法律コラム NO.188)
自筆証書遺言を書いていた友人が亡くなり、私が遺言書を預かっていたので、昨日、京都家庭裁判所に「遺言書の検認」に行って来ました。
自筆証書遺言の場合、遺言者の死後、家庭裁判所の「検認」を経なければ、遺言書としての効力を生じません(民法1004条)。
自筆証書遺言を発見した人あるいは保管していた人は、その遺言書を家裁に提出して「検認」を請求しなければなりません。
「検認」の日には、法定相続人も立ち会うことができます。
法定相続人の調査も保管者の仕事です。
私たちは弁護士ですから相続人調査は慣れていますが、一般の方だったら結構面倒で大変だろうと思います。
検認の手続きでは、裁判官が、まず保管者に対し「これは誰が書いたものですか?」「押してある印鑑は誰のものですか?」などという質問をされました。
次に、立ち会っている相続人にも同じ質問がされました。
手続き自体は、5~10分で終了しました。
あとは、遺言書の内容どおりに執行するだけです。
(女性弁護士の法律コラム NO.187)
数ヶ月前、高校の後輩から、岐阜県のある地区の公立小中学校事務職員の研修会での講演を依頼された。
当初、依頼されたテーマは「学校給食の未納問題について」。
学校給食費を払わない保護者がいることについては新聞で読んだりして知ってはいたが、弁護士として何か事件で関わったり、あるいは研究したりしたことがないので、最初は私は講師としては適当ではないとお断りしていた。
後輩は「滞納者に対し、法的に誰がどのような請求ができるか」「どんな請求方法があるのか」などの法的な解説でいいからと、断る私になおもくいさがってきた。
なんで1労働者である事務員さんがそんなこと考えなきゃいけないの?そんなことは自治体の顧問弁護士が考えればいいことでしょ!と更に私は突き返した。
それでも「自由に話してもらっていいから」と引き下がらない後輩の姿勢に、とうとう根負けし、未納対策のような技術的な話でなく、その未納の背景にある社会実態も含めて話をしてよいなら引き受けると言い、ついに講演を受けることになってしまった。
それからが大変だった。
まず学校給食費の未納の実態がどうなっているのか。
文部科学省が数年毎に調査をしており、未納額は、ここ数年22億円を超えることがわかった。
また調べていくと、想像どおり、その背景には、子どもの6人に1人が貧困という過去最悪の数字となった「子どもの貧困」ひいては日本社会の貧困そのものがあった。
そもそも学校給食は「教育そのもの」であるにもかかわらず、歴史的に、自治体の歳入扱いにすることも校長の私会計とすることも国は認め、結局、自治体任せになっているという驚くべき実態が続いていることもわかった。
11月25日、約100名の事務職員の皆さんを前に「子どもの貧困と学校給食問題」という演題で講演を行った。
昨年6月「子どもの貧困対策推進法」が成立し、今年8月にその大綱が閣議決定されたことも話の中に盛り込むことができ、その意味でもタイムリーだった。
専門外の内容だったため、始めはどうしようかとかなり不安もあったが、講演準備のために、かなり本や論文も読み、学校給食問題を通じて子どもの貧困をあらためて考える機会となった。
とても勉強になった。
(女性弁護士の法律コラム NO.186)
厚生労働省は、11月15日、職場でのセクシュアルハラスメントや、妊娠・出産を理由に不利益な扱いなどを受けるマタニティハラスメントについて、初めて本格調査をすることに決めた(2014年11月16日付け京都新聞朝刊)。
特に、派遣やパートなど立場が弱い非正規雇用の女性たちの被害が深刻になっているとして、詳しい実態をつかみ、防止策づくりに役立てるのが狙いとのこと。
調査は来年にも実施する予定。
均等法にセクハラ規定が設けられても、議員の議会でのセクハラやじに象徴されるように、社会の意識はあいかわらず低い。
まして、妊娠・出産については、数十年も昔と変わらないような嫌がらせが横行している。
泣き寝入りしている女性も多いはず。
是非とも、多くの働く女性たちの実態を把握してほしいと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.185)
「LEE」という女性向けの月刊誌。
主に20-30代の女性向けのファッション誌だから、今の私にはおよそ無縁の雑誌である。
創刊が1982年らしい。雑誌の名前は知っていたが、自分が20-30代頃にもおそらく購入したという記憶はない。
そんなLEE12月号を購入した。
それは、この手の雑誌には珍しく、12月号に憲法に関する記事が掲載されていることを知り、読んでみたいと思ったからだ。
憲法9条を改悪しようとするキナ臭い動きに反対して、当事務所の若手弁護士2人も含め全国の若手弁護士らが「明日の自由を守る若手弁護士の会」を結成し活動を展開している。
東京では「憲法カフェ」なるものを開き、若手女性弁護士を交え若い女性たちの憲法トークなども展開されているよう。
そんな流れの中で、女性は美容やファッションだけに関心があるのではない!と、女性ファッション誌が憲法をテーマとした記事を掲載してくれることは、とても嬉しい。
LEE12月号には「母親たちの初めての憲法教室」というタイトルで5ページにわたり記事が掲載されていた。
「教えてくれた先生」は、あの伊東塾の主宰者で「日本国憲法の理念を伝える伝道師」こと伊藤真弁護士。
イケメン弁護士でもある伊藤弁護士の話は、いつ聴いても、勢いよく流れるように、しかしわかりやすく、聴衆がグイグイ引き込まれていく。
記事では、そんな伊藤弁護士と生徒役の若い女性4人との対話形式で憲法の話が進められていき、とてもわかりやすい。
「憲法って何?」「どんな改正論議がおこっているの?」ということだけでなく、最後に、今、私たちにできることについてもちゃんと触れてあった。
憲法は日本の土台となるもの。
そして、これからを担う若者に直接関わってくるもの。
こんなふうに、いろんな場で、いろんな形で、「憲法」が語られるといいね。
(女性弁護士の法律コラム NO.184)
昨日午後は、日弁連交通事故センターの「交通事故無料電話相談」の担当だった。
午後1時から4時まで、京都弁護士会の中の1室で一人で電話相談を受けた。
このシステムは、詳細はよくわからないが、相談者が電話をかけると、東京につながり、そこから全国各地の弁護士会の相談電話に転送されるしくみのようだ。
だから、相談の電話も全国各地から入る。
昨日は、3時間の間に12-3件位の電話を受けた。
相談者の住まいは、関西のみならず、岩手や栃木、東京もあった。
相談が終わり、受話器を置いたら、すぐに次の相談が入る忙しさ。
相談時間は、10~15分くらいでと指示されているので、次々と回答しなけれならず、経験の浅い弁護士が担当の時は大変だろうなと思った。
短時間での電話相談なので、書面を読んだり突っ込んだ相談は無理だが、一人で悩むより、ほんのちょっとアドバイスを受ければわかることや安心できることもたくさんあるので、気軽に利用してほしいと思う。
例えば、昨日の相談内容は、
・弁護士特約保険に加入しているのに、軽微な事故には特約を「使わない方がよい」と保険会社から言われた(被害者側)。
・1ヶ月前の死亡事故(被害者側)。加害者側保険会社が早く示談をしてほしいと言うが、刑事事件の推移を見たいがどうか。
・仕事中の事故(被害者側)。労災と加害者側保険とどのように請求したらよいか。
などなど。
余談だが、全国から電話がかかるので、最初の相談者の声のイントネーションで、この人は「東北地方の人?」「中部地方の人?」などと、無意識に考えている自分がおかしかった。
(女性弁護士の法律コラム NO.183)
今日(2014年10月29日)付け読売新聞朝刊の「恋と結婚」というコラムに、夫が浮気をした時の人生相談の回答の時代による変遷が掲載されていた。
古くは、夫が浮気をしても、ひたすら夫の心の変化を待ち、我慢すること。
世の中には、二号さん、三号さんを持つ男性もいる。
嫉妬する妻は見苦しい。
などなど、封建的な家族社会を象徴する回答ばかり。
変化は、1973年頃の高度経済成長が終わりを告げた頃から。
我慢することはない、でも離婚するかどうかは自分で決めなさい。
背景には、男女平等の価値観がある。
でも、女性の経済力の低さを心配する回答も。
それらは今も同じ・・・
離婚に関する法律相談を受けていると、マレに「私は、離婚した方がいいんでしょうか?」と聞かれることがある。
でも、それを決めるのはアナタ。離婚後の人生を覚悟するのはアナタ。
方向を決めた時には、私たち弁護士は、いつでもアナタの力になりますよ。
(女性弁護士の法律コラム NO.182)
もう私たちの生活では、すっかり身近になった青色LED(発光ダイオード)。
その発明に携わった中村修二さんが、今回、ノーベル物理学賞を受賞されました。
今朝の各新聞でも触れられていますが、中村修二さんは、青色発光ダイオードの発明をめぐって、元雇用先の企業(日亜化学工業)に対し訴訟を起こし、職務発明の対価について、企業に雇用されている研究者へ道を開いた人としても有名です。
中村さんは、日亜化学に在職中に青色発光ダイオードの製造の一部にかかる発明をしました。
しかし、それに対し、会社から支払われた報酬は、たったの2万円でした。
そのため、中村さんは、2001年8月、日亜化学に対し、会社が取得した特許の持ち分の移転登録の請求と、予備的に職務発明の対価として200億円の支払を求める訴訟を起こしました。
2004年1月、東京地裁は、職務発明の対価を約604億円と認定し、中村さんの請求金額の200億円全額を認める判決を下しました。
最終的には、2004年12月、控訴審の東京高裁において、日亜化学が中村さんに対し、職務発明の対価として約6億円と遅延損害金約2億円を払うということで和解されたそうです。
その背景には、東京高裁では、中村さんの発明に対する貢献度を5%と低く認定していたことがあるようです。
訴訟の中で、対価は200億円から8億円に減ってしまいましたが、中村さんが企業内の研究者に対する正当な対価支払いへの一投石をした意義はあったと思います。
しかし、中村さん自身は、この和解を日本の技術者の敗北である、裁判所は大企業中心の判決しか下せないと怒り、日本を去ってしまいました。
中村さんは、受賞の会見で、「日本の研究者はサラリーマンで、良い研究をしてもボーナスが増えるだけ」とジョークを交えて語ったそうです。
そして、中村さんが研究を持続した動機は「怒り以外に何もない」とのこと。
「日本には自由がない」と研究環境を改善する必要を訴えたそうです。
ノーベル賞を受賞するような発明に対し、たったの2万円で済まそうとした企業。
このような日本の環境では、優秀な研究者は皆、海外に行ってしまうでしょう。
訴訟終了から10年以上経った今でも、中村さんに「日本には自由がない」と言わしめる研究環境の改善は急務です。
(女性弁護士の法律コラム NO.181)
昨夜(9月25日)のNHKクローズアップ現代のテーマは、「おなかいっぱい食べたい~緊急調査・子どもの貧困~」だった。
実は、11月に学校給食費の未納・滞納問題についての講演を依頼されている。
ずっーと、どんな話をしようかと思案を重ねているところであるが、この問題を語る場合には、現在の日本社会における貧困問題には必ず触れないといけないと思っていた。
その意味でも、昨夜の番組はとても参考になった。
7月に発表された厚生労働省の調査では、相対的貧困状態にある子どもの割合は、6人に1人と過去最悪の値となった。
番組では、貧困問題に取り組むNPOと新潟県立大学とが共同で、支援世帯の調査を実施したところ、「子ども一人当たりの食費が一日329円」で、ほとんど主食のみの家庭が8割以上あったという。
子どもの成長に必要な栄養が取れないほどにまで食費が圧迫されている実態がある。
食の貧困は、子どもの身体の健康だけでなく、自己肯定感を喪失させ、友達が作れないあるいは不登校になるなど学校生活や日常生活にも大きな影響を及ぼす。
そんな中で、小中学校の給食費を無料化した栃木県大田原市のとりくみや、東京都豊島区のNPO法人の地域の子向け食堂のとりくみは、注目される。
国は、今年1月に子どもの貧困対策推進法を策定したが、食に対する具体策はない。
国としては、緊急に、食に対する踏み込んだ政策を提言してほしい。
(女性弁護士の法律コラム NO.180)
8月26日夜、京都弁護士会で「後見制度信託支援」についての研修があったので参加しました。
京都家裁から、講師として裁判官と書記官が来られ、第2会場も設けられるほどの盛況ぶりでした。
(なお、後見制度信託支援の概要については、2014年8月27日付け「法律コラム:その他」を参照してください。)
2012年2月から始まった制度ですが、開始以前から、弁護士会その他の関連団体などが反対の意見書を提出しており、今回の研修は、単に制度の手続きを弁護士に説明するという内容でしたが、あらためて色々問題を感じてしまいました。
実際、今後の高齢化社会を見通すと、後見事件は増加する一方で、確かに、現在の家裁の人員では不正事例を見抜くなどの「監督」は困難であろうと思われます。
でも、本来であれば、事件数増加に見合う人員を配置するなり、法定後見監督人との連携を強化するなどの方策が検討されるべきではなかったでしょうか。
この制度の最大の問題点は、その「解決」の方策を、民間の大企業である信託銀行に委ねてしまっていることです。
信託銀行にとっては、顧客を確保する手間や努力の必要なく、契約が取れるということになるのです。
しかも、信託契約する際には、原則として、市中銀行の預金などは解約した上で、信託銀行に入れることになるというのだから、信託銀行に移る財産は相当な規模になることが予想されます。
また、選任された専門職後見人は、選任後数ヶ月間で、本人の日常生活に必要な支出の見通しと適切な生活支援のプランを計画し、信託財産に入れない必要金額を算出しなければなりませんが、はたして、就任されたばかりの専門職後見人にわずか数ヶ月で本人にとって適切な判断ができるでしょうか。
制度はまだ始まったばかりですが、制度の運用を注意深く見守っていかなければならないと思いました。
(女性弁護士の法律コラム NO.179)
Nさんは、事情があって、3人の子どもを置いて、夫と別居した。
子どもは3人共まだ幼く、とりわけ一番下の子どもはまだ1歳だった。
Nさんから離婚調停を受けてほしいと依頼された時、何はさておき、子どもとの面会交流は求めなくていいのか尋ねた。
Nさんは、夫との間で面会交流については揉めないと思うと言ったので、面会交流を別事件として申立てなかった。
しかし、いざ離婚の調停が進み、その中で面会交流の話し合いが始まると、Nさんの予想に反し、夫は、別居後、子どもが神経質になっているからすぐには会わせられないとか、当面は隔月でしか会わせられないとか言い始めた。
そこでNさんと相談し、あらためて面会交流の調停を申し立てた。
その手続きの中で、Nさんは面会条件についてずいぶんと譲歩したが、最後、夫は、子どもの受け渡し場所をどうしてもNさんの自宅にすると言い張った。
しかしNさんは、いくら子どもとの面会交流とは言え、別れた夫に自宅に来られるのは嫌だと言い、その気持ちは私も十分理解できた。
裁判官も夫を説得してくれたようだが、一時は、審判に移行せざるを得ないと覚悟した。
その後、急転直下、夫は自宅以外の場所で受け渡しを行うことを了解し、面会交流の調停が成立した。
調停が成立した時、Nさんは、子どもと約9ヶ月間会えていないので、日々成長していく子どもと久しぶりに会うことは嬉しいけど不安だと語っていた。
先日、Nさんが事務所を訪れた。
1回目の面会交流日が過ぎた後だったので、「どうだった?」と尋ねると、一番下の子はさすがにキョトンとしていたが、上の二人は「ママー!」って駆け寄ってくれたと嬉しそうに話してくれた。
色々あったけど、元夫にも感謝。
離れていても良い親子関係をはぐくんでいってほしいと心から思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.178)
国連人種差別撤廃委員会は、2014年8月29日、日本政府に対し、ヘイトスピーチ(憎悪表現)問題に「毅然と対処」し、法律で規制するよう勧告する「最終見解」を公表した(2014年8月30日付け朝日新聞朝刊)。
裁判所(京都地裁と大阪高裁)もヘイトスピーチについて損害賠償を認める判決を下している。
ところで、自民党。
8月28日にヘイトスピーチ対策のプロジェクトチーム初会合が開かれたが、議論は、国会周辺のデモや街頭宣伝活動にまで及んだ。
「(大音量デモで)仕事にならない状況がある。仕事ができる環境を確保しなければいけない。批判を恐れず、議論を進める」(高市早苗政調会長)。
国会周辺での原発反対や秘密保護法反対などの国民の声が彼らにとっては、仕事にならないほど、非常に耳障りのようだ。
デモや街頭宣伝で政治的な意見を表明することは、憲法で保障されている重要な「表現の自由」である。
それを、国会議員や政府与党が「仕事にならない」「うるさい」という理由で規制を検討するなど、憲法無視もはなはだしい。
ヘイトスピーチ対策を口実に、本来の「表現の自由」まで規制されないよう、しっかりと監視していかなければいけない。
(女性弁護士の法律コラム NO.177)
京都府立大学の学生たちが、京都地裁で裁判を傍聴し、裁判官、検察官、弁護士の振るまいや言動を評価する「コートモニター」活動に取り組んでいる。
内容をまとめた報告書を日弁連のシンポジュウムで発表し、今後、地裁にも届けたいとしている(2014年8月28日付け京都新聞夕刊)。
裁判員制度が定着する中、市民と法廷の距離を縮め、市民目線で裁判の改善策を提示するのが狙い。
モニターを経験したある学生は、裁判官の居眠りや、法曹三者のそれぞれで原告、被告、証人に対して気遣ったり突き放したりする態度の差が印象に残るという。
司法が国民に開かれ、身近であることは、とても大切なこと。
私たち弁護士も、このような市民目線・市民感覚からの評価に対し、真摯に耳を傾けていかなければいけないと思った。
(女性弁護士の法律コラム NO.176)
今週水曜日、事務所の他の弁護士のピンチヒッターで区役所の無料法律相談に行った。
午後1時に区役所の市民窓口に行くと、既に何人かの相談者が待っておられた。
その中から「村松先生!」という声がした。
声の方に振り向くと、なんとそれは、元依頼者のFさんだった。
Fさんとは、私が弁護士になって数年経った頃に子どもさんの交通事故事件を担当してからのつきあいで、その後、子どもさんの離婚やご自身の近隣トラブルの相談を受けたりし、ずいぶん長く関わらせていただいた。
でも、私が今の事務所に変わってからは、子どもさんは来られたことがあるが、ご本人とはお目にかかっていなかったので、久しぶりの再会になった。
順番を待って相談室に入って来られたFさんの話によると、Fさんは、たまたま区役所に書類を取りに来て、その書類の書き方がわからなかったので無料相談を受けようと思った、担当弁護士が村松先生だったらいいなあと思っていたら、本当に村松がやって来たのでとてもビックリしたとのこと。
へぇ~、そんなことあるんやね。運命の再会かしらね。
束の間、そんな会話がはずんだ法律相談だった。
(女性弁護士の法律コラム NO.174)
長時間労働の最たる職業の1つが、教員である。
経済協力開発機構(OECD)は、6月25日、中学校を対象に教員の勤務環境や指導状況を調査した国際教員指導環境調査の結果を公表した。
それによると、1週間の仕事時間は日本が53.9時間で、参加した34カ国・地域で最も長かった。
授業時間は参加国平均と同程度だったが、部活動の指導や事務作業に費やした時間が大きく上回った。
「日本の教員は忙しい」と指摘されて久しいが、今回の調査で国際的にも多忙が裏付けられた格好だ。(2014年6月26日付け京都新聞)。
私は、これまでに教員の過労死の公務災害事件にいくつか関わった。
小学校教師のケースが2件(心不全、脳内出血)、中学校教師のケースが1件(脳内出血)あった。
教員の場合、そもそも所定の勤務時間内では、授業の準備やテストの採点、資料作りなどをする時間はなく、学校に残って残業するか、自宅に持ち帰って処理しているのが常態化している。
また、学校内外の会議への参加、校務分掌や校内の事務処理などもあり、放課後や休日さえも部活の指導や試合の付き添いなどの仕事がある。
しかし、それに見合った残業手当さえ支払われない。
それでも、裁判になると、それが「通常の仕事」「他の教員もしている」「命令していない。自分が好きでしている」などと主張して、公務災害と認めようとしない。
教員自身がブラック企業で働いているようなもの。
過労死が社会問題化してから既に20年以上の歳月が経過している。
でも、教育現場は、ますます教員にとっても過酷になっているのではないだろうか。
教員自身が過重な仕事でフラフラになりながら仕事をしており、そんな中で、子どもに対し、きめ細かい豊かな教育はできないと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.173)
憲法9条の解釈変更によって集団的自衛権を認めようと急ぐ自民党・安倍首相の姿を毎日ニュースで見て、本当に嫌になる日々です。
与党の公明党に淡い期待を抱きましたが、やはり所詮は公明党。
与党の座から下りたくない公明党は、結局、自民党に取り込まれそうな気配です。
皆さんの子どもや孫達が、人を殺しに行ってもいいんですか?
皆さんの子どもや孫達が、殺されてもいいんですか?
そんな中で、去る6月10日、京都弁護士会は「安全保障を巡る憲法問題と立憲主義の危機に関する会長声明」を発表しました。(内容は、京都弁護士会ホームページに掲載されています)
「九条を守ろう!」という声をもっともっと大きくしていきましょう。
(女性弁護士の法律コラム NO.172)
まだ記憶に新しい、厚生労働省の村木厚子さんの無罪。
その決め手となったのは、当時、大阪地検特捜部の前田恒彦検事が証拠のフロッピーを改ざんしたことが明るみとなったからだ。
彼は、その後、取り調べる側から取り調べられる側となり、被疑者・被告人を体験し、あるいは他の事件の参考人・証人ともなり、最終的には受刑者となった。
昨日、京都弁護士会主催で、全面証拠開示・全面可視化のシンポジュウムが開催され、第1部は、前田氏の講演だった。
服役後、初めて公の場での講演だった。
冒頭、村木事件については、「証拠や事実に対して謙虚さを欠いた卑劣な行為だった」と謝罪し、検察改革が進まない現状に「(改革のきっかけの)張本人である自分が問題点を語る必要があると思った」と話した。
彼が語る捜査の実態は、生々しくリアルだった。
被疑者・被告人に有利な記述が警察の捜査報告書に書かれてあれば削除させる「差し替え」、被疑者や被告人に不利な供述だけを調書にして、その他は「聞くだけ」の「つまみ食い」など、私たち弁護士がおそらく警察や検察で行われていると「確信」する方法が実際に行われていることが、取り調べ側にいた人間の口から語られた。
検察庁は、検察官や警察の不祥事が起こると、それをその個人の個性や問題にすりかえようとしてきたが、実際は、検察や警察全体の体質から生まれているのだ。
今のままでは、また第2、第3の前田検事が生まれてしまう。
刑事裁判で「真実を発見」するには、絶対に、全面的な証拠の開示や取調べの可視化が必要とあらためて実感した。
失敗しない人間は、いない。
前田氏は、検察官の特捜部というエリートコースから転落しただけでなく、犯罪者となり、刑も受けた。
でも、人間にとって大切なのは、その失敗した後の人生をどのように生きるかということだと思う。
前田氏が服役後、FACEBOOKなどを通じて検察改革を主張していることに対し、それをやめるよう様々な所からの圧力があるとのこと。
でも、彼自身が、取り調べる側から取り調べられる側まですべてを体験した人が語る言葉は重いし貴重だ。
是非、圧力に屈せず、検察改革を進める力となってほしいと思う。
(女性弁護士の法律コラム NO.171)
記者会見まで開いて「無罪」と言っていた被告人が、一転して「すいません。私が真犯人です」ということになったPC遠隔操作事件。
私たち弁護士にとって、「絶対にやっていない」と言っていた被疑者や被告人が、途中から「実は、やっていた」とくつがえすことは、そんなに珍しいことでもない。
一生懸命「無罪」として弁護活動をしていたのに、それが事実ではなかったことを知ったときは、正直、ショックを感じる。
若い頃は、その若さ故に、特にショックが強かった記憶がある。
被疑者・被告人との信頼関係が破壊されたと感じれば、私撰であれば、弁護人をやめることもありうる。
今回のPC遠隔操作事件の主任弁護人である佐藤博史弁護士は、記者会見で、「全く裏切られたような否定的な感情はない」「私自身は、否認している被疑者が『実は、やってました』と告白することに何回か遭遇している。それをもとに弁護するのが弁護士だ。裏切られたと非難するものでもない」と言っておられた。
そして、被告人には、即座に「あなたを見捨てない」と言われたそうだ。
佐藤弁護士は、再審無罪を勝ち取った足利事件の主任弁護人であった。
長年の刑事弁護活動に裏打ちされた経験で、被告人を「見捨てることはできない」と判断されたのであろう。
被告人にとって、多くの善良な人々を巻き込んだ罪の重さは、はかりしれない。
(女性弁護士の法律コラム NO.170)
約10年前の離婚事件の依頼者Aさんが久しぶりに法律相談に来てくれたのは、昨年の夏だった。
1週間後にガンの手術をするということで、遺言などについての法律相談だった。
私よりずいぶん年下のAさんのガン手術の話は、とても衝撃だったが、淡々と語るAさんは、冷静で落ち着いているように思われた。
そして、最近、またAさんが相談に来られた。
私の気持ちのどこかにAさんの手術の予後が気がかりだったこともあり、再び会えたことは本当に嬉しかった。
でも、Aさんの口からは、手術はしたが、ガンは転移しており、余命はあまりないという言葉が発せられた。
悲しかった。
今回、相談に来られたのは、そんなAさんに新たな事件が起こったからだ。
弁護士がつかないと解決できない事件ではないと思われたが、私はこんな状態のAさんを一人で裁判所に行かせるわけにはいかないと思い、受任することにした。
これも縁。
Aさんの負担を少しでも少なくしてあげられるよう、力を尽くしたい。